HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Tue, 03 Jan 2012 01:22:46 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:故吉村昭さんには、追われる男を描いた作品が多い。戦時中の航…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

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 故吉村昭さんには、追われる男を描いた作品が多い。戦時中の航空隊基地で艦上攻撃機を爆破した海軍整備兵の人生を描いた『逃亡』は、実話に基づいている▼基地から脱走し都内に潜伏した整備兵は北海道に逃れ、偽名で劣悪な労働現場に身を投じた。戦後、米軍司令部に出頭した彼は、軍用機を爆破するよう勧めた男が米側の諜報(ちょうほう)機関員だったことを悟る▼逃亡兵という過去を持つ男は妻にも本当のことを話せず、闇の中に身を潜めるような日々を過ごす。事件の二十五年後、不意に電話があった小説家(吉村さん)の取材を受けると、胸に重苦しく沈殿していたものが一気に消える解放感を味わった。ぐっすり眠れたのは戦後初めてだった▼大みそかの深夜、突然、警視庁に出頭したこの男は今、どんな心境なのだろうか。十七年間の逃亡の末、逮捕されたオウム真理教元幹部の平田信容疑者は、接見した弁護士に「震災で不条理なことを多く見て自分の立場を考えた」と話したという▼出頭時は十万円を所持、衣服も整っていた。教祖の死刑を「当然」と語り、もう教団への信仰はないと語ったが、支援者の有無など謎は多い▼<男は、闇を信じていた>。吉村さんは『逃亡』をそう書き出した。闇の中から姿を現した平田容疑者は解放感を味わう前になすべきことがある。知る限りの事実を明らかにすることである。

 

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