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昨年、世界を動かした主役は若者たちだった。
独裁体制を倒した「アラブの春」も、米ウォール街の占拠から世界に広がった「格差社会」への抗議行動も、若い世代が先頭にいた。
なにせ、どこも若者受難の時代なのである。
国際労働機関(ILO)によれば、世界の15歳から24歳の失業者数は09年、過去最多を記録した。その後も失業率は、他の世代を大きく上回る。それが「世界中でみられた抗議の要因だ」とILOは分析している。
日本でも直近の統計で、この世代の失業率は約9%で、全世代平均の2倍近い。
40%を超すスペインなど欧米諸国よりは低いから、現状への「不満」はまだ少ないのかもしれない。だが将来への「不安」は、おそらくひけをとるまい。
日本でも若い力が動き出している。たとえば、昨年の大阪市長選だ。朝日新聞社の出口調査では、前回の選挙より投票所に足を運んだ若者が増え、20代、30代の7割は大阪維新の会の橋下徹氏に一票を投じていた。
■若者と日本の窮地
「学生・大阪維新の会」の市橋拓代表(23)はブログにつづった。「10年後、20年後、日本はどうなってるんやろと考えると、すごい怖い」
不安の源は働く環境だろう。
グローバル競争に生き残るためのコスト削減は先進国共通の厳しさだが、日本なりの事情もある。緩んだとはいえ、新卒で一括採用し、終身雇用する慣行がまだ残っている。
この仕組みだと、会社は社員の暮らしを守るため、新たな正社員の採用を絞る。「狭き門」をくぐれなければ、能力を磨く機会を逃しがちだ。
だから日本では、不況期に社会に出た人たちが長期にわたって収入が低くなる傾向が、米国などよりも著しいという研究結果もある。
加えて、少子高齢化だ。
日本はかつて、多くの現役世代で高齢者を支える「胴上げ型」の社会だった。いまは「騎馬戦型」であり、将来は「肩車型」になる。
だから消費増税が必要だと、野田首相は説く。
その通りなのだが、忘れてはならない前提がある。若い世代が税や保険料を納められなければ、社会保障は成り立たない。担う側がやせ細っていては、肩車は、お年寄りもろとも崩れてしまうという現実だ。
■説得が政治の責務
成長社会から成熟社会へ移行するいま、何より大切なのは、若い世代を強くすることだ。
教育を受けやすくする。雇用の機会を広げる。子どもを生み育てる環境を整える。それが、政治の最優先課題である。
正社員と非正規の待遇格差を縮め、子育てが終わった世代と仕事や賃金を分かちあう方策も考えるべきだ。
だが、現実はどうか。
子ども・若者向けの公的支出の比率を、経済協力開発機構(OECD)加盟国など39カ国で比べたところ、日本はなんと38位(07年データ)だった。
政府も、子どもを含む「全世代対応型」社会保障への転換を掲げている。それでも思うように進まないのは、財源を生み出すために、他の支出を我慢してもらう説得ができないからだ。
年金を本来の水準に引き下げることさえ、お年寄りの反発が怖くて先送りを重ねてきた。
しかし、これは子や孫のためだ。長い目でみれば、すべての世代の利益になる。そう説得するのが、政治の責務だ。
■かぎは市民の対話
ただ、選挙で有権者に嫌われたくない政治家は責務から逃げようとする。政治が迷走続きなのは、そのせいだといっていい。民主主義は、新たな負担の分かちあいが苦手なのだ。
この弱点を乗り越え、どうやって政治を動かすか。頼もしそうなリーダーに任せれば解決するほど、ことは簡単ではない。
まずは政治家が進化すべきだが、同時に有権者も変わらなければならない。
たとえば、利害が異なる人々が、もっと対話したらどうか。高齢者に手厚い社会保障の現状を、お年寄りと若者はこのままでいいと納得しているのか。
大阪の市橋さんは市長選で街頭に立ち、「応援者ではなく、当事者として参加してほしい」と、政治に関心を抱く機会が少ない同じ世代に呼びかけた。
いま選択を誤れば、若者が高齢者になるとき、社会保障は壊れているかもしれない。もし財政が破綻(はたん)すれば、暮らしや経済への打撃は計り知れない。そして若者は、選択の結果から逃れられない。
世代をつないで分かちあう社会を、どうすれば実現できるのか。それを先々の世代に引き継ぐには何が必要なのか。
若者はもちろん、より多くの有権者が当事者として考える。それが政治を動かす原動力になるに違いない。