HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 49249 Content-Type: text/html ETag: "f5b5a-12c1-4b551b5d81866" Expires: Sat, 31 Dec 2011 03:22:18 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Sat, 31 Dec 2011 03:22:18 GMT Connection: close 12月31日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)




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12月31日付 編集手帳

 波止場のある町で育ったので、一句がまとう夜の匂いが懐かしい。〈バーテンは霧笛の船の名を知れり〉(富岡桐人(とうじん))。俳人が女優安奈淳さんの父君であることを、安奈さんの随筆で知った◆子供の頃は酒場にまだ縁がなく、船の名を教えてくれるバーテンさんの知り合いもいなかったが、霧笛には思い出がある。大みそかの夜、日付が変わると同時に停泊中の船から一斉に鳴り出す霧笛は、埠頭(ふとう)のそばにお住まいの方にはおなじみだろう◆静寂に余韻のしみ入る除夜の鐘も味わい深いが、今年は何十年かぶりで除夜の霧笛に心をひかれている。安否を尋ね合っては涙し、無事を知らせ合っては涙した年の終わりには、哀調を帯びて呼び交わす霧笛が似合うかも知れない◆〈われわれは後ろ向きに未来へ入ってゆく〉。あたかも行く手に背を向けてボートを()ぐように。詩人バレリーの言葉という。人が見ることのできる景色は過去と現在だけである。あの日、あの朝、すぐ後ろに何が待っているか、誰も知らなかった◆忘れたいものと、忘れてはいけないものと、心に重い船荷を載せた今年の航海も、じきに終わる。

2011年12月31日01時26分  読売新聞)

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