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今年もたくさん献本していただいた。出版社ばかりか、自費で編んだ詩集や句集を送って下さる方も多い。すべての熟覧はかなわないが、納めの日を借りてお礼申し上げたい▼書物の山を前に、安岡章太郎さんの随筆「本の置き場所」の一文が浮かぶ。「本が増え過ぎて嘆かわしいのは、家が狭くなることもだが、それを読む時間が自分にどれだけ残っているか、と考えるときである」▼50代の記だから、現在91歳の作家には長い時間が残っていた。それでも、50歳を過ぎて人生が引き算になる焦燥は分かる。そして時の流れの速いこと。高橋真梨子さんの名唱「オレンヂ」のごとく、〈春儚(はかな)き 夏儚き 秋儚き 冬儚き〉である▼日本人の平均寿命は、女性が86歳を超え、男性も80歳に迫る。生まれた時に約3万日をもらう計算だ。統計上は、ほぼ半数がその歳月を使い切らず生涯を終える。終えるのではなく「断たれる」不条理を、これほど感じた年はなかった▼読みかけの本もあったろう。絵本しか知らずに、持てる時間の大半を余して消えた命も多い。あれ以来、新たに始まる一日と、近しい人を愛(いと)おしむ機運が高じた気がする。いま生きている、それだけで貴い▼年惜しむ、とは言いづらい一年だったが、人の強さや優しさも知った。はかなき四季を共に過ごす奇遇、誰かとつながる喜びを、かみしめたい。被災地に笑顔が戻る日を願い、ご愛読と「書き写し」に感謝し、忘れ得ぬ年の筆を洗います。よいお年を。こんどこそ。