民主党の九衆院議員が集団で離党届を提出した。消費税率引き上げ方針などへの反発だという。にわかには評価できないが、少なくとも野田政権の幹部は、公約破りへの警鐘だと受け取るべきだ。
かつて見た光景がまた眼前で繰り広げられている。年末の離党、新党騒ぎ。この時期の離党は政党交付金狙いだと容易に想像はできるが、背景にある危機感を見過ごすわけにはいかない。
それは民主党が、政権交代を果たした二〇〇九年当時とは異なる存在に成り果てたということだ。その代表格が、消費税増税方針や八ッ場ダム建設再開であることはいうまでもない。
離党届を提出した議員の一人は記者団に「(〇九年衆院選)マニフェストで当選した議員として、ことごとくほごにされては立つ瀬がなくなる。変質した民主党に失望した」と語ったという。
その心情は理解できる。ただ、本当に失望しているのは国民であることを忘れてもらっては困る。
選挙の洗礼を受けていない野田佳彦首相は、マニフェストに書いていない消費税増税に「不退転の決意」を強調する一方、約束したはずの行政の無駄をなくすことにはあまりにも不熱心だ。
中止を掲げた八ッ場ダムの建設再開が省庁主導で決まったり、沖縄県での米軍基地新設を強行するために書類を夜陰に乗じて運び込むのを見ると、民主党政権はすでに官僚に対する統制力を失っているとすら思えてくる。
こんな党にとどまっても、目指す政策は実現できないし、何より次の選挙で当選するのは難しい。ならば離党して新党から立候補した方が生き残りの機会は広がる。離党者はそう考えたのだろう。
民主党税調は消費税を現行の5%から一三年に8%、一五年に10%に引き上げる案を示した。
本来なら離党せず、政権がマニフェストとは違う方向に進むのを全力で阻止すべきだった。当選一回議員が多く経験不足とはいえ、それが政党政治家の役割だ。
筋論で言えば、個人名の票ではなく民主党票で当選した比例代表選出議員が離党した場合、議員辞職するのが望ましい。
離党者は野田政権批判を強める小沢一郎元代表に近い。第二、第三の離党者が続く可能性もあり、権力闘争の側面は否定できない。
しかし、野田首相や輿石東幹事長ら政権幹部が彼らの行動を支えている国民の怒りを軽んじるなら民主党にもはや存在価値はない。
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