野田佳彦首相が初訪中し、胡錦濤国家主席、温家宝首相らと会談した。これを契機に首脳交流を重ね、難しさを増す両国関係や東アジア情勢について本音でものを言い合う関係を築いてほしい。
首相による中国公式訪問は二〇〇九年の麻生太郎首相以来で民主党政権では初めて。この間、日中首脳は多国間会議の場で会ったことはあるが、じっくり話し合い信頼関係を築く機会はなかった。
昨年九月、尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁巡視船の衝突事件が起きてから、首脳同士が多国間会議で顔を合わせても、個別に会うことさえ、難しい時期があった。
民主党政権は二年前の発足当時は中国などアジアとの外交を重視していたが、尖閣事件後は対米依存を深め中国に警戒感を隠さなくなり「高圧的」(防衛白書)と批判を強めた。首脳同士が話し合う機会も少なかったことが、両国の相互不信をいっそう深めた。
野田首相が二日間とはいえ公式訪問し、胡主席をはじめ党のナンバーワンから3まで個別に会談したことが、悪循環を変えるきっかけになることを期待したい。
しかし、両国のよそよそしい関係が長く続いたためか、金正日総書記死去後の朝鮮半島問題や、東シナ海の資源開発協力など安全保障にかかわる論議は、公式見解のやりとりに終始した感が強い。
これらは両国の国内でも意見が分かれる敏感な問題で、首脳同士が率直な意見交換をするには信頼関係が欠かせない。中国ではガス田開発協力を進めるには日本が尖閣周辺の共同開発に同意することを前提にすべきだという根強い反対がある。軍や海上実力部隊の一部は尖閣領海に迫る実際の行動で党指導部に圧力をかけている。
こうした中で、資源開発協力を目指す条約交渉を前に進め危機管理体制を構築するには、両国の首脳が相手の立場を考え注意深くことを進める配慮が必要になる。
金融や環境分野の協力は前進した。外貨準備を活用して相手の国債を持ち合う。両国が投資し環境関連ファンドを設立することは、日中が協力する環境事業にはずみをつけることにもなろう。
来年は日中国交正常化四十周年に当たり、民間の交流事業を拡大する好機だ。そのためには、両国の根深い安全保障をめぐる相互不信を少しでも減らし、尖閣事件のようなトラブルを二度と起こさないことが、何より大切なことを両国のリーダーは銘記すべきだ。
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