「御用新聞」というと体制側にべったりという軽侮した響きがあるが、日露戦争の当時、反戦を主張した新聞社が御用新聞と呼ばれた、と司馬遼太郎さんが書いている▼時の政府や伊藤博文ら元老は絶対的な国力の差を考え、ロシアとの戦争は避けたかった。政府の主張に沿い「自重すべし」と書いた社は御用新聞と非難され、政府を批判する好戦的な社が「戦うべし」と世論をあおり立てたという▼司馬さんの小説『坂の上の雲』を初めて映像化したNHKのドラマが最終回を迎える。ロシア艦隊を迎え撃つ日本海海戦のヤマ場が放映されるが、薄氷を踏む日露戦争での日本の勝利は、革命勢力が力を増しつつあったロシアの国内事情に助けられた面も大きい▼戦争の生活苦から高まった民衆の不満は十二年後のロシア革命につながる。世界初の共産主義国家、後のソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)の誕生である▼民族も宗教も異なる十五の共和国をまとめ、米国と世界を二分した超大国は七十四年間しか存在しなかった。スターリンという独裁者が国民を弾圧する暗黒時代も長かった▼歴史的なソ連の崩壊からきょうで二十年。貧富の格差が広がり、政府の腐敗がソ連時代と同じロシアのような国もあれば、欧州連合に加盟した国もある。二十年で結果を求めるのは酷なのだろうか。民主政治の根づきにはまだ遠い。