HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Fri, 23 Dec 2011 23:21:37 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:年の瀬に貧困を考える 窮乏から目を背けずに:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

年の瀬に貧困を考える 窮乏から目を背けずに

 年の瀬は貧しさがこたえる。生活保護者数は史上最悪を塗り替えている。クリスマスも縁遠い困窮者の救済こそが、最優先に据える国の仕事ではないか。

 非正規雇用者が40%に近づく現代は、路上生活への落とし穴が潜むといえる。Aさん(61)は派遣会社に登録したのが始まりだ。二〇〇五年ごろから、静岡県内の家電メーカーの工場で働いた。

 「月に二十日間で月給は十六、七万円。忙しいときだけ仕事がくるのです。正月などは半月間も休みで、もちろん給料は出ません」

 ◆保護は「肩身が狭い」

 寮費はむろん、テレビや冷蔵庫にもレンタル料がかかる。光熱費なども給料から差し引かれると、「ほとんど手元に残らない」のが実態だという。

 「辞めてくれ」という雰囲気を感じて、〇七年に退職したときは五十代後半だった。東京・上野でホームレスへと転落した。福祉事務所に相談し、一時保護の施設から、自立支援のセンターに入寮した。何とか警備員の仕事を見つけたものの、自立できなかった。

 「十五時間もの勤務は、体にこたえました。しかも、十二人の大部屋の寮は、勤務時間が異なる人々との集団生活なので、ゆっくり眠れないのです」

 新宿の路上や公園でのホームレス生活に逆戻りした。生活保護を申請した〇八年の所持金は数百円、預貯金千円余り。それでも担当者は「自立支援センターへ」と答えるばかりだったそうだ。

 「会社の面接に行っても、住所が自立支援センターだと分かると、断られてしまうのです」

 面接に行く電車賃も履歴書の証明写真の費用捻出も苦しかった。支援団体のサポートもあり、現在は都内で生活保護を受けている。アパートに住み、ある施設の宿直員を務める。収入で足りない部分を保護費がカバーするのだ。

 ◆「水際作戦」という非情

 「でも、肩身が狭いです。今も自立したいと思い続けています」

 生活保護者数は二百六万人と史上最多に達した。不況や非正規雇用の蔓延(まんえん)、雇用保険や年金の制度の脆弱(ぜいじゃく)さなどが原因だろう。

 問題点はまだある。生活保護が最多といっても全人口の1・6%だ。日弁連によると、ドイツでは9・7%、フランスでは5・7%、英国では9・3%である。日本では制度の要件を満たす人の20%弱しか、利用されていないという。保護が必要な人を捕捉できないでいるわけだ。

 「行政窓口で『水際作戦』が徹底された結果でもあります。高齢になるほど就職からはじかれるのに、病院の診断で『就労可』を取り付けて、申請を押し返すわけです」(竹下義樹弁護士)

 しばしば不正受給の問題がやり玉に挙がり、財政圧迫や受給者の医療費増が問題視される。確かに保護費の急増は行政には悩ましいだろう。だが、不正受給は全体の1・54%にすぎない。受給開始の理由も「収入の減少・喪失」が〇八年の19・7%から〇九年に31・6%へと急増したように、不況と失業が大きな要因なのだ。

 困窮者を見捨てていいはずがない。憲法が生存権を定め、生活保護は「最後の安全網」である。行政が申請権を侵してはいけないし、社会の偏見払拭(ふっしょく)も課題だ。

 所得が低く生活が苦しい人の割合を示す貧困率も16・0%と悪化の一途だ。何より子どものいる世帯で貧困率が高まっている事実は見落とせない。

 「とくに母子家庭の貧困率が高いのが日本の特徴です」と東京大大学院人文社会系研究科の白波瀬佐和子教授は指摘する。貧困率の指数はほぼ生活保護水準の生活レベルを示すという。

 「母子家庭ではパートなどで朝、昼、晩と三つも仕事を掛け持ちしている母親も少なくありません。低賃金で、一つの仕事だけでは生活が成り立たないのです」

 給食費や文房具などの費用も重くのしかかっている。

 「仕事に追われ、子どもに接する時間も十分になく、朝ご飯を食べさせられない家庭もあります」

 子どものときに、もう夢ある人生の“階段”を外されているのと同然ではないか。クリスマスの鈴の音も遠かろう。

 ◆生活と教育インフラを

 「人生のスタートラインからこぼれ落ちている状況が、深刻な問題点の一つです。子どもたちの将来を大きく左右します。貧困に伴う不条理な環境にある子どもたちをも包み込む、生活と教育のインフラを整える必要があります」

 野田佳彦首相は「中間層の厚み」を掲げた。その近道は貧困層への手厚い政策だ。就労につなぐ行政努力はもちろん、企業側も国内雇用の拡大を進めてほしい。人の潜在的な力を引き出す手を打とう。それが実を結べば、この暗鬱(あんうつ)な社会が蘇(よみがえ)る契機になろう。

 

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