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小紙の声欄を読んで、ときおり切り抜いている。去年に読んだ一通を、年の瀬の銀行の長い列に並んで思い出した。「暴言にめげず老いを生きる」と寄せた女性は、病院内の現金預け払い機でもたつき、後ろの男に「さっさとやれ」と怒鳴られた▼動作がのろくなったと自覚してはいたが、ショックだったという。長生きはしたくないものだと半月ほど落ち込んだ、とあった。「早くしろ」のオーラを立ちのぼらせ、もたもたに不寛容な空気が、どうも世の中に濃い▼人だけでなく機械もそうだ。机上の電話はプッシュに少し手間取ると切れてしまう。歩行者用信号にも随分早く赤になるのがある。取り残されるご高齢がいるとハラハラさせられる▼そんな中の朗報だろう。渡りきれない人を感知して青の時間が延びる信号機がお目見えした。全国でまだ20基余りというが、増えつつある。たとえば水戸市のは、通常は20秒だが5秒から15秒延びる▼一般に、高齢者が10秒に進める距離は若年より2メートル短いという。体に支障があればさらに遅れよう。急げば転倒の恐れもある。信号に限らず、バスの乗降、レジの支払い。せかす空気が緩めば、お年寄りは萎縮しないで済む▼〈三秒だけ待って下さい履けるのです飛んできて靴を履かせないで〉の一首が小紙歌壇にあった。介護の人に訴えているのだろう。善意でも、健康成人のペースで測っては、できることも奪ってしまう。周囲で街で、心と時間のささやかな余裕を、互いに贈りたい。