北朝鮮の金正日総書記死去を受け、政府は不測の事態に備えて万全の態勢をとるという。情報収集・分析など危機管理体制は大丈夫なのか。これまでの対応を振り返ると、何とも心もとない。
北朝鮮のような閉ざされた国家で何が起こっているのか、正確な情報を得る困難さは理解する。しかし、少ない情報でも正しく分析すれば、多くを読み取ることができ、外交に生かせるはずだ。
金総書記死去をめぐる日本政府の初動対応は、とても万全とはいえなかった。
北朝鮮国営メディアが十九日正午に「特別放送」を行うと予告したのは同日午前十時。特別放送は一九九四年の金日成主席死去以来であり、予告は金総書記の動静に異変があったことを示唆している。
この情報を素直に読み解けば、政府は予告時点で、情報収集・分析の強化や、正式発表後に速やかな対応がとれるよう、関係閣僚を待機させることもできたはずだ。
しかし、野田佳彦首相は特別放送直前、街頭演説のために首相官邸を離れ、拉致問題担当相を兼務する山岡賢次国家公安委員長は安全保障会議に間に合わなかった。
外務省は特別放送の意味を的確に分析して官邸に伝えたのか。それとも外務省は伝えたが、首相らが正しく理解できなかったのか。
藤村修官房長官は金総書記死去発表の約一時間半後に記者会見して「哀悼の意」を表した。外国指導者に対する弔意は外交メッセージでもある。政府は十分な検討を経て表明したのだろうか。
拉致被害者・家族の心情を考えれば早すぎるし、融和的な外交姿勢に転じるとの誤ったメッセージを北朝鮮に与えかねない。韓国は慎重に検討して「哀悼」を避け、翌二十日に「慰め」を表明した。
金総書記死去発表前日に行われた日韓首脳会談。韓国の李明博大統領が従軍慰安婦問題の解決を迫り、解決済みとする野田首相との間で激しいやりとりが続いた。
一時間の会談中約四十分にわたる応酬は日本側には想定以上だったようだが、求心力の低下した大統領が沸騰する韓国内世論を無視できないことを考えれば、韓国側の強硬姿勢は事前に予想できたはずだ。
情報収集・分析力の劣化は、外交力の低下に直結し、国益を損なう。首相は消費税率引き上げに力を注ぐのではなく、外交立て直しにまず全力を尽くしたらどうか。
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