若いころに天才だ、ともてはやされながら、年齢を重ねると伸び悩む人がいる。不器用でぱっとしなかったのに、大成する人がいる。どうしてだろう?▼エッセイストの山川静夫さんが、そんな疑問を陶芸家の故・加藤唐九郎さんにぶつけてみたことがある。「そりゃねぇ、持続力なんじゃよ。利口であるより継続が大切なんです。そして、その継続の中で、しっかり伝統をうけつぎ、力をつけて、反逆するんだ」(山川静夫著『名手名言』)▼伝統を意識しながら、愚直に努力を重ねていく中にこそ独自性が育つ。唐九郎さんが言いたかったのは、そんなことだったのかもしれない▼実に千二百二十六回も放送された国民的時代劇の「水戸黄門」がきょう最終回を迎え、四十二年の歴史に幕が引かれることになった。最高43・7%という驚異的な視聴率を記録したこともあった怪物番組は近年、人気が低迷していた▼若者に人気のある俳優をキャストに加えても効果はなく、視聴率は10%前後。唐九郎さんの言葉を借りるなら、伝統を受け継いで努力を重ねたものの、「反逆する力」=新しい個性が、視聴者に受け入れられなくなった、ということになろうか▼勧善懲悪まっしぐら。「偉大なるマンネリ」とやゆされながらも、お年寄りから子どもまで楽しませてくれた。あの決めぜりふが聞けなくなるのはやはりさびしい。