厚生労働省は働くことを希望する従業員全員について、六十五歳までの継続雇用を企業に義務付ける方針を示した。無年金・無収入化を防ぐ当然の措置だ。企業も熟年パワーをしっかり生かそう。
企業経営者にとって最近の相次ぐ労働規制強化は頭が痛かろう。懸案の労働者派遣法改正案は継続審議となって先送りされたが、今度は高齢者の雇用の義務付けが打ち出された。
二〇〇六年四月に施行された改正高年齢者雇用安定法では、六十歳で定年を迎えた従業員は段階的に六十五歳まで雇用を確保することを企業に義務付けている。
背景にあるのが厚生年金の支給開始年齢の引き上げだ。すでに定額部分の支給は引き上げられており、一三年度からは報酬比例部分が六十一歳になる。放置すれば無年金・無収入者が続出する。
企業の継続雇用は定年制廃止と定年延長は少なく、八割強が「継続雇用制度」である。同制度では定年で一度退職し再び契約する再雇用制度が多い。その際、企業側は働く意欲や健康など「基準」を設けて従業員を選別できる。
厚労省の今年六月の調査によると過去一年間の定年到達者約四十三万五千人のうち、継続雇用を希望した人は全体の75・4%。継続雇用を希望しない人が24・6%、そして「基準非該当」は1・8%、約七千人となっている。
そこで同省は非該当者の採用は可能と判断、このほど開いた労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で基準の撤廃を提案した。
しかし経団連などは反対だ。希望者全員を再雇用すれば高齢者が急増し新卒採用を抑制せざるを得ない。企業の新陳代謝も低下し国際競争力は弱まると主張する。
企業側の懸念は無理もないが、高齢者が増えれば若者の雇用は減るとの根拠は、実は乏しい。経済協力開発機構(OECD)や国際労働機関(ILO)によると労働の質の違いから「若年労働者は単純には高齢労働者の代替にはならない」という。
若者の採用抑制は景気や海外移転などの理由の方が大きい。欧州では労働者の早期退職が推奨されたが、年金などの負担増加でかえって若者の雇用機会を減らしたという。
大切なのは高齢者雇用では年金との接続だけでなく熟年者の経験や技術、ノウハウを積極的に生かす視点だ。高齢者を使い捨てにしてはいけない。人を大切にする経営を徹底してこそ企業は栄える。
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