侵入盗などのニュースに出てくる「犯人はバールのようなものでシャッターをこじ開け…」といった表現。それを主題にしたのが、立川志の輔さんの創作落語『バールのようなもの』である▼基になった清水義範さんの原作は未読だが、志の輔さんの口演は以前、聴いたことがある。<女のような>が<女>ではないように、<バールのようなもの>は<バール>ではない…といったところから広がる話だったと記憶する▼さて、福島第一原発事故について、野田首相は昨日、事故対応の工程表のステップ2達成を宣言。原子炉は「冷温停止状態」で「発電所の事故そのものは収束した」と述べたが、どうにも違和感がある▼「冷温停止」とは本来、密閉された原子炉が通常の冷却装置で冷やされ、安定して止まっていること。だが、現状は、炉は壊れ、間に合わせの方法で何とか冷却を続けている状況で、溶けた核燃料がどんな様子かも不明だ▼政府がその言葉に「状態」を付け、手前勝手な定義で用いるのは、危険性の低減、成果の大きさをアピールしたいがゆえだろう。でも結局、<冷温停止のようなもの>は<冷温停止>ではない▼前に「発電所の」と付けて、あえて「事故収束」を言うのも同断。大きなものを小さく、小さなものを大きく見せようとするような姿勢は、国民を<安心のようなもの>へしか導くまい。