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政治家という人種はときおり「歴史」という一語を都合よく使う。米国のオバマ大統領がイラク戦争の終結を宣言し、「まもなく歴史になる」と述べたのもその類(たぐ)いだろう▼歴史のことを「ひょっとしたら避けられたかもしれない出来事の積み重ね」とも言う。イラク戦争もその感がある。だが、唯一の超大国だった米は「戦争ありき」で突き進んだ。開戦をはさんで国連を取材していたころ、その尊大ぶりはきわまっていた▼「味方か敵か」と国際社会に迫り、開戦に反対する仏や独を「古くさい欧州」と小ばかにした。「世界を仕切るのだという思い上がりが、我々を振り回し続ける」。嘆きの声を、各国の外交官から聞いたものだ▼結局、イラクに大量破壊兵器はなく、仕掛けた戦いは「大義なき戦争」の汚名にまみれた。早く「歴史」にしたい大統領は兵士に「おかえり」を繰り返す。その間にもイラクでは、収まらぬ混乱に血が流れている▼「歴史」の2文字に、先日も歌をお借りした故竹山広さんを思った。長崎で被爆した歌人は米に厳しい目を向け、戦後62年の晩年に次の歌を詠んだ。〈あやまたず歴史は書けよ六十二年アメリカがなしきたりしすべて〉。イラク戦争も眼(め)に入れてのことだったろう▼そして、小泉政権がこの戦争を真っ先に支持した史実も、あやまたず書かれなくてはなるまい。なのに検証もせず、頬被(ほおかぶ)りを決め込む政治家は、とうに忘れてしまっているかのようだ。歴史への不誠実が世界に恥ずかしい。