オバマ米大統領がイラク戦争の終結を宣言した。来月始まる大統領選挙を睨(にら)んだタイミングであるのは明らかだが、約九年にわたった大義なき戦争は、米国自身の衰退を浮き彫りにして幕を閉じる。
イラク戦争を象徴するシーンの一つに、空母リンカーン上でのブッシュ前大統領の「大規模戦闘終了宣言」がある。二〇〇三年五月、「任務完了」の横断幕を背にした事実上の勝利宣言は米単独主義のイメージを国際社会に植え付けた。「あれは大失敗だった」。後日ブッシュ氏も自伝の中で認めている。
ブッシュ政権が掲げた大義が実体のないものだったことは、米政府自身をはじめ、オランダなどの検証で明らかになっている。英国でも政府調査委員会がなお検証作業中だ。明瞭な国連安保理決議を欠いたままの戦闘開始であったこと。国際社会への脅威とされた大量破壊兵器が結局存在しなかったこと、は今や周知の事実だ。日本でも検証が求められよう。
国際協調路線をうたって就任したオバマ大統領は、イラク戦争を選択された戦争、アフガニスタン戦争を必要な戦争、と位置付けつつ、両国からの米軍撤退戦略を練ってきた。ビンラディン容疑者殺害に見られる現実主義的な実力行使と、イスラム対話を掲げた国際協調路線を使い分けてきたのが実態だ。イラク戦争終結は、オバマ大統領にとって、一応の公約実現と受け止められよう。
しかし、イスラム社会との対話路線では何ら具体的な成果が見られていない。訪米したイラクのマリキ首相は、民主化の成果を強調はしたものの、宗派対立、原油利権の調整など、国内安定化への道程はなお不透明なままだ。隣国イランと米国の関係は、核開発疑惑をめぐり緊迫の度を深めており、米軍撤退を機に影響力を強める懸念が拭えない。中東に広がる民主化革命も第二幕に入り、イスラム主義陣営が支持を広げており、予断を許さない。
米国はすでに来月早々本格化する大統領選挙モードにある。膨大な戦費負担、金融危機の長期化で債務不履行寸前に陥るなか、オバマ政権にとってイラク戦争は一刻も早く「歴史」に任せ、より切実な雇用問題など内政に専念したいところだろう。
大義なき戦争は、超大国たる米国自らの疲弊をもたらした。米国は他国においておろそかにしてきた武力行使後の国家再建を、自国で迫られることになる。
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