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大いにうなずく方もおられようか、川柳をひとつ。〈世界一怖い乗り物体重計〉。毎日新聞社刊の『女の一生』という川柳集にあった。万物に重さを与えたという「ヒッグス粒子」のニュースに、この短句がまず浮かんできた▼きのうの記事は3度読み返した。かのビッグバンで宇宙が誕生したとき、万物の元である素粒子には質量がなかったそうだ。そこへヒッグス粒子が作用して質量をもたらした。つまり、この粒子なしに宇宙には星など何も存在しない、という理屈になるらしい▼それゆえ「神の粒子」と呼ばれるナゾの粒子が、実際に存在する「兆候」を、欧州の研究機関がつかんだという。今のところ存在の確率は98.9%だが、晴れて「発見」となるには99.9999%が必要というから、粗雑なわが頭の想像を超す▼1960年代に、英国のヒッグス博士が存在を予言した。実証すればノーベル賞級らしい。物理学上の「大予言」とされ、探索に5千億円以上が投じられてきた▼無駄金という声も出そうだが、寺田寅彦が「科学はやはり不思議を殺すものでなくて、不思議を生み出すものである」と言っていたのを思い起こす。不思議を生んでは解いていく営みは、人の人たる証しでもあろう▼いくら体重計が怖くても、ヒッグス粒子がなければ人も存在しない。無よりはやっぱり有がいい。先の川柳集からもうひとつ。〈どうにでもなれとブタマン2個も食う〉。大宇宙の原初につながる、人の体の不可思議と愛(いと)しさよ。