南アフリカのダーバンで開かれていたCOP17は、会期を丸一日以上延長して決裂を回避した。「全員参加」の舞台はできた。次は中身とスピードだ。
京都議定書が先進国に義務付けた温室効果ガス削減の約束期間は、来年終わる。だが、そのあとの削減ルールを、どうするかが決まらない。
一昨年、コペンハーゲンにオバマ米大統領ら首脳級が集まって協議したCOP15以来、足踏みに近い状態が続いている。
期限切れ直前の気候変動枠組み条約第十七回締約国会議(COP17)でも、世界の実情に合った新議定書の合意は最初からあきらめて、国際ルールの空白期間を避けられるかどうかが焦点だった。
◆緑の気候基金を設置
その結果、議定書をしばらく延長した上で、温室効果ガス排出量世界一ながら、削減義務を拒否する途上国グループのリーダー格の中国と、経済に支障があるからと議定書を離脱した世界二位の米国を含む新ルール、法的拘束力を持つポスト京都の枠組みを二〇一五年までに策定し、二〇年に発効させることへの合意にこぎ着けた。
温暖化で被害を受ける途上国の対策を先進国が支援する「緑の気候基金」の設置に合意したことも、アフリカで開いたCOPの大きな成果だろう。
各国にどのような削減義務を割り振るかなど、肝心の中身は三年後まで先送りされたとも言える。
日本は、米中抜きで議定書を延長しても温暖化対策にはならないとして、議定書の締約国には留(とど)まるものの、延長後の第二約束期間では削減義務を受け入れない。新ルールができるまでの七年間は、欧州連合(EU)が、ほぼ単独で議定書を維持していくことになる。世界の排出量に占める割合は15%にしかならない。
◆米中印も拒まなかった
それでも米中印が、新ルールへの参加を拒まなかった。ヌコアナマシャバネ議長は「この歴史的、画期的な決定が、大きな変化をもたらすと信じている」と、閉幕のあいさつで期待を込めた。
他にも変化の兆しはある。これまでのCOPのように、過去の温暖化に責任を持つべき先進国と、削減義務を負うことで経済発展のスピードを落としたくない途上国の対立という、南北問題の図式は崩れ始めている。
削減義務を負わない中国やインドに対する不満は、海水面の上昇で国土水没の危機にさらされるキリバスやツバルといった小さな島国のグループだけに留まらない。砂漠化の進行や干ばつなどが深刻なアフリカ諸国の間にも、広がりつつあるようだ。
国内総生産(GDP)世界二位の中国は、いつまでも“途上国”ではいられない。「交渉の妨害になっている」と、米国への風当たりも強まった。地球益を損なえば、国益に跳ね返る。新旧の超大国には、一五年までの新たな枠組みづくりに向けて、特に積極的な関与を求めたい。米中が動けば、温暖化対策は動くのだ。
EUは経済危機の重荷を負いながら、空白期間回避のために、土壇場で相応のリーダーシップを発揮した。それに比べて、日本の存在感は、希薄になった。
日本は京都議定書の母国、特別な国である。その日本がキョウトを見捨てれば、海外の目には無責任に映るだろう。
日本政府は昨年のCOP16で結ばれたカンクン合意に従って、自主的な削減努力を続けるといい、産業界は歓迎の意を表している。
原発に頼らなければ、京都議定書で課せられた一九九〇年比6%の削減義務さえおぼつかないのが現状だ。自主的に減らすのは強制されてやるより難しい。
「京都」を捨てた日本から世界は目を離さない。よほどの“努力”を示さなければ、削減義務を果たせないから脱落したとみられるだろう。そのことを忘れずに、より高く、より深い目標を掲げて、新しい枠組みづくりで重要な役割を果たしてもらいたい。
昨年、世界の二酸化炭素(CO2)排出量は、前年より約6%増えて過去最高を記録した。今年、北極海の氷は最小になった。日本では、横浜や名古屋で観測史上最も暑い秋だった。温暖化はもはや、見えない敵ではなくなった。
◆目の前に危機はある
生き物には、自らの危機を察知し、それを回避する能力が備わっているはずだ。人間だけがその本能を失いつつあるのだろうか。
国連の潘基文事務総長はCOP17の会場で「まったく誇張なしに、この会議にわれわれの未来がかかっている」と訴えた。
もうこれ以上、本当に先送りは許されないということだ。
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