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ダグ・ハマーショルドの名をご記憶の方は、どれほどおられよう。国連の名事務総長で、敗戦国日本の加盟にも力のあった人だ。公務中の飛行機事故で亡くなり、死後にノーベル平和賞を受けた。国連にかかわる人が寄せる敬愛は今も深い▼週末に授賞式のあった今年のノーベル賞に、その名を思った。スウェーデンの詩人トランストロンメル氏が文学賞を受けた。その「俳句詩」と呼ばれる3行詩を、同国人のハマーショルドもよく作っていたからだ▼トランストロンメル氏の詩は、硬と柔の叙情で琴線にふれる。〈高圧線の幾すじ 凍れる国に絃(げん)を張る 音楽圏の北の涯(は)て〉(エイコ・デューク訳『悲しみのゴンドラ』から)。脳卒中で失語症の後遺症を抱えてから、最少の言葉に世界を凝縮させる俳句詩に傾倒していったそうだ▼片やハマーショルドは、激務の折々に多くの俳句詩を残した。〈復活祭の空のもと、雪溶(ど)けにふくれあがった小川 夕べ。食卓にはすみれ〉(鵜飼信成訳『道しるべ』から)。遺著を読むと、俳句型の定型への思いはなかなか深い▼〈冬の月が枝の網目に絡め取られた 約束に縛られて 私の血は重かった〉は厳しい国連総会のとき作ったという。アフリカなど紛争地に踏み入ったときも、様々な胸の内を最短の詩に託していた▼ハマーショルドが没して今年で50年になる。「十七音節詩が追憶とその意味とへ分け入る扉を開いてくれた」と書く国連事務総長がいたことを、日本人が忘れるのは惜しい。