事前に犯行の芽を摘めなかったのか。殺人未遂容疑で逮捕された埼玉県三郷市の少年(16)は刃物の収集マニアだった。子どもが加害者にも被害者にもならないよう身近にいる大人は敏感でいたい。
十一月半ばの夕方、通信制高校二年の少年が女子中学生を襲ったとされる三郷市の現場は、高速道路の高架に近く田畑が広がる。住宅街の外れで、夜間は暗く、人目につきにくい。
江戸川を渡ってすぐの千葉県松戸市では十二月初めの昼下がり、小学生の女児が刺された。学校グラウンドと住宅街に挟まれて流れる小川の沿道が現場だ。やはり人通りが少ない。
二〇〇八年に東京・秋葉原や茨城・JR荒川沖駅であった通り魔事件の犯人は、衆人環視の下で捨て鉢になったように無差別殺傷に走った。少年は人目を盗み、下校途中の一人歩きの女の子ばかりをつけ狙った。陰湿さが漂う。
少年は「歩いている人を殺そうと思った」と話し、三郷と松戸の事件に続いて新たに犯行を重ねようとしていた疑いが強い。動機や背景の解明は極めて重要だ。
親や先生は少年の異変に気づかなかったのか。自宅では二十本余りの刃物が出てきた。父親が買い与えたこともあるという。息子が抱いている興味や関心事に注意を払っていたとは思えない。
三郷の事件の前まで通った私立高校では十一月初め、少年が猫の死骸の一部を持ち込んだと騒ぎになった。そして突然、自主退学した。動物虐待は殺人の予兆とも言われる。尋常ではない言動への危機感を欠いたのは残念だ。
逮捕の決め手は「ナイフを持ち歩く高校生がいる」という自宅周辺の住民らの通報だった。地域の目が犯罪を防ぐのにいかに大事かをあらためて教えてくれる。
二つの事件があった地域には農地が多く残り、昔ながらの住民と比較的新しい住民が一緒に暮らしている。ただ、地元の町会の活動は古参住民が引っ張り、新興住民の関心はかなり低いという。
地域のつながりが薄れれば犯罪を抑える力が奪われる。松戸の事件で地元町会が学んだ教訓だ。これからは飼い犬の散歩に出掛ける住民に、防犯パトロールを兼ねてもらおうと考えている。
少年の模倣なのか東京や埼玉、茨城など関東各地で子どもが切りつけられたり、脅されたりする事件が相次ぐ。凶悪犯罪に発展する前に食い止めねばならない。身の回りの異変に目を凝らしたい。
この記事を印刷する