村松建彦さんの第一歌集『ナナメヒコ』からは、以前にも短歌を引用させてもらったことがある。作歌から推察するに、長くお茶関係の仕事をなさってきた方かと思う▼<三十年たずさわりしがそのことを「青味返り」というのを聞かず>という一首には「新茶時期になると去年の古茶が色と香りを取り戻す」の詞(ことば)書きがつく。その言葉、寡聞にして筆者も知らなかったが、古茶も新茶に負けてはおれぬと若返るのか▼古茶に分類される者の一人として、ぜひ“青味返り”をと期待していたのが、プロ野球の工藤公康投手だ。昨季、ライオンズで戦力外となり、今季は球団に所属せず復活を模索してきたが、昨日、ついに現役引退を表明した▼二年ばかり前、夫人が工藤家の冬の食卓に欠かせぬ根菜鍋を小紙で紹介してくれている。記事によれば、独身時代、暴飲暴食で体がボロボロだった工藤投手の肉体を再生したのも奥様の手料理だったとか。そんな支えあっての通算二百二十四勝、実働二十九年だろう▼長年、ぜひ見たいと願っているのが「五十歳の現役」。その夢に最も近かった四十八歳の引退は痛いが、次にはドラゴンズの山本昌投手、四十六歳がいる。あの記録王・イチロー選手も狙うと聞くが、こればかりは山本投手の方が夢に近い▼今季はけがで登板ゼロ。まずは来季、見事な“青味返り”を見せてほしい。