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これは、江戸のお話。俳句仲間の月見の脇をみすぼらしい男が通りかかった。お前さんも一句どうかね、と小馬鹿にされながら誘われる。渡された短冊に「三日月の」と書くと、「おいおい今夜は満月だよ、やっぱり素人はだめだなあ」と笑いが起きた▼男は微笑して後を続けた。〈三日月のころから待ちし今宵(こよい)かな〉。見事な機知で一本とった男は小林一茶。他説もあるようだが、俳人の坪内稔典さんが、真偽はおいて、として『俳句のユーモア』(岩波書店)に紹介している▼さて今宵、一茶ならどんな句をひねるだろう。月が一夜で「満ち欠け」する皆既月食が、晴れれば全国で見られる。今回は月の位置が高く、絶好の条件という。三日月のころから待った天文ファンは多いだろう▼佳境は深夜だが、土曜日という巡りがうれしい。澄みわたる月を「氷輪(ひょうりん)」と呼ぶ。欠け始めてから、再び皓々(こうこう)と光る輪に戻るまで、日付をまたぐ3時間半の天体ショーになる▼数多(あまた)ある天体の中でも、月をめぐる世界の民族の豊かな想像は楽しい。餅つきの兎(うさぎ)だけでなく、人間から蜘蛛(くも)まで多彩な「住人」がいる。だが先日は、無粋な話も聞こえてきた▼月に人を送った米国が、アポロ着陸地の「立ち入り禁止」を検討中だという。中国などの将来の有人探査を見越してのことらしいが、「月に縄張り」とは、やれやれだ。それはさておき〈皆人(みなひと)の昼寝の種や秋の月〉松永貞徳。「冬の月」と詠み換えて、ショー見物の寝不足を日曜に補うもよし。