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福島第一原発の事故で、政府からの指示がなくても自主的に避難した人や、自宅にとどまった人への賠償をどうするか。政府の原子力損害賠償紛争審査会が指針を決めた。[記事全文]
国が示した放射能の数値をめぐり、また混乱が起きている。文部科学省は、学校給食の食材を測定する機器代の半額を、都道府県に補助する。先週、その詳細を通知した。[記事全文]
福島第一原発の事故で、政府からの指示がなくても自主的に避難した人や、自宅にとどまった人への賠償をどうするか。
政府の原子力損害賠償紛争審査会が指針を決めた。
対象は、福島県内で警戒区域など政府が避難を指示した地域の周辺23市町村。約150万人に及び、実際に避難したかどうかにかかわらず支払う。被曝(ひばく)の影響が特に心配な子ども(18歳以下)と妊婦は1人40万円で、その他は8万円。子どもと妊婦は12月までの分とし、1月以降は改めて検討する。
対象地域や金額について、様々な意見がある。特に自主避難者から批判が強いのは、実際の費用や損害を積み上げるのではなく、定額方式とした点だ。
避難指示に基づく賠償の対象となる十数万人には、慰謝料として毎月10万円のほか、避難時の移動費用、仕事や商売ができなくなったことに伴う減収分などが支払われる。今回は東京電力への請求件数が膨大になることから、早く支払うためにも定額方式をとったという。
賠償額は本来、個々の事情や損害に応じて決めるべきだ。審査会も今回の指針は、対象者に少なくとも共通に生じた損害を示すものと位置づけ、「(指針以外にも)個別具体的な事情に応じて賠償の対象と認められうる」と指摘する。
枝野経済産業相も国会答弁で同様の認識を示し、「様々な実費については賠償の対象になる。東電ですみやかに支払うよう指示する」と語った。
自主避難した人、しなかった人が抱える損害は、政府指示による避難者以上にまちまちだ。「実費」をどこまで認めるか。
原子力損害賠償紛争解決センターの役割が重要になる。
東京都内と福島県郡山市に事務所を置き、被害者と東電が和解できるよう、弁護士から任命される委員が仲介する。
このほど、福島県外に自主避難した3世帯(うち2世帯が今回の対象地域)が、実費などに基づく賠償として計3300万円を東電が支払うよう、センターに仲介を申し立てた。
申し立ての希望者は多いはずだ。ただ、法律の知識に乏しいことで、ためらう人もいるだろう。弁護士会をはじめ、専門家は積極的に支援してほしい。
センターの和解案にも納得できず、裁判に踏み切る例も増えてくるとみられる。
様々な判断を積み重ね、その結果を紛争審査会の指針作りに役立てていく。過去に例のない事故に伴う賠償である。社会的合意を探る努力を続けたい。
国が示した放射能の数値をめぐり、また混乱が起きている。
文部科学省は、学校給食の食材を測定する機器代の半額を、都道府県に補助する。先週、その詳細を通知した。
そのなかで、機器の性能として「1キロ当たり40ベクレル」超を検出できる精度を求め、放射能が検出された際の対応として、40ベクレルを超えた品目は献立から外す、などの例を示した。
食品の安全基準については厚生労働省が、肉や野菜は1キロ当たり500ベクレル、水や牛乳は200ベクレルとした暫定規制値を、厳しくする作業の最中だ。
森ゆうこ文科副大臣は、その見直しを先取りした、と説明。「40ベクレル以下が給食食材の安全の目安になる」と話していた。
ところが自治体から、食材の基準が突然厳しくなることに戸惑いの声が上がると、文科省はあわてて「40ベクレルは機種選定の目安」と説明を修正した。
説明は今週、また変わった。中川文科相は、厚労省の新しい規制値が出るまで、40ベクレルが自治体の判断の目安の参考になる、とした。一方の小宮山厚労相は「事前に相談があってしかるべきだった」と述べた。
すでに各地の自治体で、独自に給食食材を検査し、測定値を公開する動きが広がる。国の暫定規制値より厳しい基準を定めた所や、検出された放射能が暫定値以下だった食材を使わなかった自治体もある。
給食の安全をどう守るか、国の考え方を示すことは必要だろう。問題は、発信のしかただ。
役所間の調整不足に加え、大臣と副大臣の食い違いには、あきれるほかない。基準?目安?参考? 「40ベクレル」はいったい何のための値なのだろう。
思い起こすのは、原発事故の後、文科省が福島の子どもたちの屋外活動を制限する基準を定めたときのことだ。「年間20ミリシーベルト」と示したことが批判を浴び、1ミリシーベルトが目標だと改めた。それが人々の不安をますます増幅させた。
リスク情報を分析・評価・提供し、科学的知見を整理し、市民が行動したり判断したりするための指標を示す。そうした「リスクコミュニケーション」で、政府は失敗を繰り返してきた。不透明な決め方、まずい説明、ぶれる見解。その結果、いうことは信用されないままだ。
数値を示す重みを、どれほど自覚しているか。政府として十分な吟味をしたうえで、国民が納得でき、実行できる指針を伝えなくてはならない。
まずは文科省が説明をやり直すべきだ。