東日本大震災の被災地で、延期されていた地方選挙がすべて終わり、新たな自治を担う首長、議員が決まった。地域再興への願いを託した被災者の一票一票は、いつになく重いことを肝に銘じたい。
異例ずくめの選挙だった。四月に予定された統一地方選から最長七カ月余も延びた。特に福島県内では原発事故で有権者約八万人、うち県外に約三万人が避難する中、県議選など残りの十件が同時に実施された。
各選管は事前に不在者投票を呼び掛けた。県議選の選挙公報を福島は県外にも郵送し、宮城では初めてホームページに載せた。投票所が複数自治体にまたがるケースも目立った。双葉町は町議選の立候補届け出と開票作業を役場機能を移した埼玉県加須市で行った。
三県議選の投票率は宮城41・69%、福島47・51%、岩手60・60%で、それぞれ前回を9ポイント前後も下回り、過去最低を記録した。双葉町議選も17・87ポイント低下の63・65%だった。残念なことだ。
避難者からは「投票する気分になれない」「何を基準に判断すればいいのか」との声が聞かれた。福島県議選では候補者のほとんどが脱原発を唱え、明確な争点とはなり得なかった。
低投票率の理由はそれだけでない。民主は三県議選とも議席を減らした。災害後は政権与党に有利といわれるのに、だ。自民、公明は現状維持で、共産、みんなが健闘した。震災復旧や原発事故の対応が遅れた政府に対する、被災者の無言の抵抗だ。首相交代をはじめ、政争に明け暮れた政治への強い不信感も表れている。被災地の民意として与野党とも結果を真摯(しんし)に受け止めなければならない。
有権者の一票には復興にかける思いが込められている。原発事故で全域が警戒区域の同県大熊町の町長選は「除染を進め町に戻る」と訴えた現職が、「集団移住を検討」とした新人を破った。針路は決まった。帰還を前提とした復興構想を具体化してもらいたい。
福島県議会は改選前、県内すべての原発の廃炉を求める請願を採択している。県の復興計画にも明記されるという。原発のない地域の活性化策や雇用をどう確保していくのか、大いに議論を進め対策を立ててほしい。
被災地の自治が整い、いよいよ復興が本格化する。避難者をはじめ、自治から離れがちの心をつなぎとめることが不可欠だ。故郷への思いを保たせることは首長、議員らの大切な仕事でもある。
この記事を印刷する