野田佳彦首相が、消費増税と社会保障の一体改革実現に向け「素案」の年内とりまとめを指示した。増税の時期や税率も盛り込む意気込みだ。消費増税に前のめりだが、社会保障改革は心もとない。
野田首相は五日、政府・与党の社会保障改革本部の初会合で「素案」作成を指示、「改革に不退転の決意で臨む」と述べた。
素案をもとに与野党協議に持ち込み、年度内に消費増税法案を国会に出す構えだ。
増税に一直線だが、社会保障改革はおざなりにみえる。
厚生労働省が示した改革案は年金の六十八〜七十歳への支給開始年齢の引き上げ、高所得者の厚生年金保険料の引き上げ、主婦の年金の見直しなどは見送った。
外来患者の医療費の窓口での定額百円負担、七十〜七十四歳の医療費の窓口負担一割から法律で決まっている二割への引き上げは民主党が消極的だ。
見送った項目は今は不必要なのか、将来は実施する必要があるのか、あるのなら優先順位はどうか、世代間の負担と給付のバランスは取れているかなど知りたい情報が国民に届いていない。
例えば、年金の支給開始年齢の引き上げは、対象の現役世代に不安を与えている。人生設計の見直しを迫られるからだ。老後の蓄えはさらに必要か、受給まで職を確保できるかと考えてしまう。年金制度を支えるために将来は必要と言うのなら今、説明が要る。
社会保障を支える重要性は理解しているが、改革の必要性を判断できないままの負担増や給付の抑制には納得しかねる。
改革には別の視点もある。年金、医療、介護は加入者の保険料で支える社会保険である。だが、それだけでは不足して税など公費が投入されている。
一方、国民年金保険料の納付率は昨年度59・3%だ。六割を切る状況は年金制度への不信の表れといえる。本来制度を支えるべき保険料負担のあり方について、深い議論が抜け落ちていないか。
社会保障を持続可能な制度にする狙いを国民に分かりやすく説明することも野田首相は指示した。ならば改革をどう進めるのか工程や優先順位を示すべきだ。そうでなければ一体改革とはいえない。
野田首相は消費増税法案を成立させてから、国民に信を問うつもりだ。社会保障改革は口実で、消費増税だけが政権の目的と思わざるを得ない。
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