ロシア下院選でプーチン首相率いる与党・統一ロシアが、議席を大幅に減らした。長期政権を視野に入れた、来春の大統領選でのプーチン首相再登板へ向けた戦略に暗雲が垂れ込めている。
「ソ連崩壊後で最も汚い選挙だ」。改革派のルイシコフ氏はこう批判する。行政組織を通じた露骨な締め付けなど与党のなりふり構わぬ集票活動は従来にも増して目に余る状況だ。選挙不正を追及する非政府組織(NGO)が活動を妨害され独立系メディアのサイトがサイバー攻撃を受けた。「本当の民主主義の結果」と強弁するメドベージェフ大統領の言葉は空虚に響く。
大統領選の前哨戦と位置づける下院選を前に政権は統一ロシアの支持率低下に危機感を募らせていた。窮余の一策で繰り出したのが、九月の与党大会で打ち出したメドベージェフ大統領とプーチン首相のタスキがけでのポスト交換だった。自身の人気を梃子(てこ)に巻き返しを図ったが、双頭政権解消の「密約」を明かし、市民に幻滅感が広がった。
盤石とみられたプーチン体制の背景には、原油価格高騰に伴う経済成長で、国家が安定した生活を保障し、その代わりに国民は政権に政治を委ねるという、いわば「暗黙の社会契約」があった。それを体現したのが、プーチン氏の強力な指導力だった。
しかしロシア経済は二〇〇八年の金融危機から回復が新興工業国中、最も遅れている。原油価格は高値で安定したが、物価は高騰し、貧富の差は拡大した。
ロシアの根深い病巣である汚職を放置したままでは、資源依存型経済から脱却し、競争力のある産業を育成する経済近代化は不可能だ。皮肉にも汚職撲滅を唱えるプーチン時代、治安関係者を中心に官僚制は肥大化し、腐敗悪化に拍車がかかった。
国際組織が最近公表した腐敗指数でロシアは百四十三位と世界で最低水準だ。権力に従順なロシア国民もようやく現実に気が付きつつあるといえる。
気掛かりなのはプーチン氏が与党大会で選挙への外国の干渉を示唆するなど冷戦さながらの論法を用いていることだ。プーチン氏の「神通力」はモスクワなど都市部では徐々に失われつつあるが強い指導者を求める声は根強い。
求心力回復のために安易にナショナリズムを利用すれば過激な民族主義を助長する。プーチン氏はこのことを認識すべきだ。
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