一川保夫防衛相に進退問題が浮上した。沖縄の少女暴行事件をめぐる国会答弁が引き金だが、これまでも大臣の資質を疑わせる言動は多い。続投では沖縄の不信を拭えず、課題にも対応できない。
五日の衆院予算委員会。野党に加え、与党の国民新党からも防衛相の罷免要求が飛び出し、野田佳彦首相は「批判を受け止めながらも、襟を正して職責を果たしてほしい」と防戦一方だった。
事の発端は田中聡前沖縄防衛局長の沖縄「犯す」発言。これを受け、米軍普天間飛行場の移設協議のきっかけとなった一九九五年の米海兵隊員による少女暴行事件について質問された一川氏は「正確な中身は詳細には知らない」と答えた。
ともに耳を疑う発言だ。太平洋戦争末期に激烈な地上戦の戦場となり、戦後は米軍に支配され、今も米軍基地の重圧に苦しむ。そんな沖縄県民の悲しみや怒りを理解しようとしないから、県内移設を平然と進めようとするのだろう。
発言の謝罪に沖縄を訪れた一川氏に、仲井真弘多知事は「県民の尊厳を傷つけた。極めて遺憾だ」と強く批判した。沖縄の不信を拭うのは容易ではない。
自民、公明両党は臨時国会会期末の九日に一川氏の問責決議案を提出するという。採決されれば可決される公算が大きい。野党が問責決議を使って政権を追い詰める手法は問題なしとしないが、閣僚として不適格なら致し方ない。
本来なら問責決議を待たずに自発的に辞任するか、首相が罷免、更迭すべきだ。一川氏の閣僚としての資質を疑わせる言動は、今に始まったことではない。
防衛相就任時には「安全保障に関しては素人」と発言し、ブータン国王夫妻を迎えた宮中晩さん会を欠席して民主党議員の政治資金パーティーに出席もしていた。
これが首相の言う「適材適所」なのか。党内融和を優先させて適格性を見抜けなかったのではないか。首相の任命責任は重い。
首相はなお一川氏を続投させ、辺野古移設の環境影響評価書を年内にも提出する意向のようだが、火に油を注ぐだけだ。
防衛省では普天間問題だけでなく、南スーダンへの国連平和維持活動(PKO)部隊派遣や次期主力戦闘機(FX)選定問題など課題が山積している。北朝鮮や中国、ロシアの動向も見逃せない。
それらを一川氏続投で乗り切れるのか。政府与党全体で真剣に考えた方がよい。
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