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詩人の吉野弘さんに「星」という作品がある。部分の引用をお許し願う。〈有能であるよりほかに/ありようのない/サラリーマンの一人は/職場で/心を/無用な心を/昼の星のようにかくして/一日を耐える〉▼勤め人も管理職となれば、日々「無用な心」との格闘である。修羅場を任されての消耗、いかばかりか。東電福島第一原発の所長だった吉田昌郎(まさお)さん(56)が入院した。定期健診で病気が見つかったという▼最悪の事故を前に、彼は会社の利害を超えたものを背負わされた。部下を含む万単位の命だ。一民間人には重すぎるが、逃げ場はない。圧巻は震災翌日、本社の命令に逆らい原子炉への海水注入を続けたことだろう▼この判断によって、頼れる指揮官の名声は高まった。それでも、安全対策の穴を放置した責任は免れない。それゆえの砕身ならば、英雄視は迷惑だったかもしれない。社内評、身の安全、家族の心痛。あまたの「無用」を昼の星にして、耐えに耐えての離脱である▼原発事故はいや応なく、サラリーマンを最前線に押しやる。現場を支える社員、関連企業や下請けの作業員も、それぞれ何かを捨てていよう。そんな一線への後ろめたさもなく、自己弁護を並べた東電の中間報告に、会社組織の厚顔を見る▼吉田さんの不調は被曝(ひばく)とは無関係というが、極限のストレスと無縁ではあるまい。快復をお祈りしつつ、遠からず指揮する立場に戻られることを願う。ここまでの闘いを妙な美談にしないためにも。