欧州の債務危機が緊迫しています。いまや「ユーロ崩壊」というシナリオも現実味を帯びてきました。危機を克服する抜本策はないのでしょうか。
ギリシャに端を発した債務危機はイタリアやスペインに飛び火し、両国の国債価格が危険水域に急落(利回りは急騰)しました。
すると危機はあっという間に金融部門に広がり、日米欧の中央銀行は先週、資金繰りが苦しくなった銀行にドルを供給する対応策を発表しました。その後、やや落ち着きを取り戻していますが、なお予断を許さない情勢です。
◆警告も対応策もあった
二〇〇八年の世界金融危機は前年夏のファンド倒産が呼び水になりました。「今回はどこから始まるのだろうか」。世界の金融関係者がいま息を潜めて事態の推移を見つめています。いよいよ時間切れが迫っているのです。
鍵を握る欧州連合(EU)の首脳会議が今週末、ブリュッセルで開かれます。そこで危機を克服する具体策がまとまらないと、欧州はもはや事態をコントロールできず「ユーロ崩壊」まで一気に転げ落ちてしまうのではないか。そんな懸念が広がっています。
一九九九年の導入以来、欧州が育ててきたユーロという通貨圏がいったいなぜ、崩壊の危機に直面するに至ったのでしょうか。それは予想できなかった事態ではありません。実は事前の警告も対応策もあったのです。
通貨ユーロの導入は欧州中央銀行(ECB)の創設と一体でした。各国は金融政策の権限をECBに委ねる一方、自国通貨を廃止してユーロを採用しました。
本来であれば、同時に財政政策も一元化が望ましかった。放漫財政を続ければ通常、物価が上昇したり為替が下落して、やがて財政引き締めを余儀なくされます。
◆切り離せぬ金融と財政
ところがドイツのような大国が入ったユーロに加盟して物価や為替の心配がなくなると、財政規律が失われがちになる。実際、ギリシャは加盟まで必死に財政再建に取り組みましたが、加盟後は再び緩んでしまいました。
金融政策と財政政策は切り離せない。当時、繰り返し警告した有力な経済学者もいます。それもあって英国は結局、ユーロに参加しない選択をしています。
EUも財政規律が緩む問題を十分、承知していました。だからこそ、ユーロ導入に際して財政赤字の国内総生産(GDP)比率を3%以内、政府債務を60%以内などと参加への条件を定めたのです。導入後も3%の赤字条件を維持し、各国を監視しました。
それがしっかり守られていれば、まだ良かった。ところが独仏のような大国でさえ守れませんでした。違反すれば制裁を科すルールも無視された。この措置に憤った欧州委員会は欧州司法裁判所に提訴する事態になっています。
ギリシャ危機以来、EUの守護神のような立場にある独仏ですが、実はかつて自分たち自身が横紙破りをしていたのです。そのつけが回ってきたと言ってもいい。
問題は振り出しに戻った感があります。金融政策と財政政策をともに一元化するのか、それとも財政規律を守れる国同士でユーロを維持するのかという選択です。
ユーロ圏各国の共同債を発行して重債務国の国債と置き換える案は、債務の共同化という意味で財政政策を統合していく方向になります。ただし、その場合も置き換えルールを甘くすれば、放漫国が他国の信用に「ただ乗り」してしまう危険がある。
メルケル独首相はこの案に難色を示しています。ただ、首相はサルコジ仏大統領と五日にEUの規律を強化するEU基本条約の改正案を共同提案すると発表しました。いずれ財政統合は避けられないとみているのかもしれません。
逆に放漫国をユーロから追放する、あるいは規律を守る国同士が集団でユーロを脱退して新グループをつくる案はユーロの組み替えと言っていいでしょう。
その場合、いまのユーロ圏は崩壊します。どちらに動くのか、まだなんとも言えませんが、現状維持という選択があり得ないのは明確です。グローバル化した金融市場がそれを許さないからです。
以上の二つに比べれば、ECBが国債を買い切るという案は根本的な対応策とは言えません。金融と財政の分離状態は変わらず、国債価格の下落を止める一時的な対症療法にとどまります。
◆対応誤れば世界危機に
ユーロ導入の壮大な実験は十二年を経て、曲がり角を迎えました。対応を誤ると、世界経済は二〇〇八年の危機を上回る混乱に陥りかねません。欧州の首脳たちがどう判断するか。消費税論議を控えた私たちにも重要な局面です。
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