昔から、物ごとは<始めが肝心>という。だが、一方で<終わりよければすべてよし>とも。要はどっちも大事ということだろう▼確かに、長きにわたる何かのプロジェクトでも、大胆な発想でその端緒を開いた人と、成果をまとめ上げてプロジェクトを締めくくった人が華やかに称揚されがち。だが、現実には<始め>と<終わり>だけでは為(な)し得ないことの方が多い▼プロ野球セ・リーグのMVP(最優秀選手)に、ドラゴンズの浅尾拓也投手が選ばれたと知り、そんなことを考えた次第。彼は<始めが肝心>の先発投手でも<終わりよければすべてよし>の抑え投手でもない。<中間>を支える、当世風にいえば、セットアッパーだ▼ファンなら誰もが知る浅尾投手の活躍が、MVPに値するのは当然だが、それを「最優秀中継ぎ投手」の称号と同時に手にする史上初の選手となったのが、ことにうれしい▼何となく重なるのが、苦境の時は、僕が身を横たえ、激流に架かる橋になってあげるよ…と歌うサイモン&ガーファンクル、往年の名曲『明日に架ける橋』。荒れ狂う川のような相手打線に覆い被(かぶ)さり、何度、先発と抑えという“両岸”をつないでみせたか▼<始め>や<終わり>ほど目立たずとも、その間をしっかりつなぐ役回り。多分、どんな世界にでもいる、すべての“中継ぎ投手”へのエールにもなろう。