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2011年12月4日(日)付

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政治を鍛える 自治―「自分たちで決める」が原点だ

 きょう、岩手県大槌町は復興のひとつの節目を迎える。

 町内の10地区が、それぞれ2カ月かけて検討してきた復興計画の素案を持ち寄る。前町長をはじめ、住民の1割近い1300人余りが犠牲になった町が、再起へまた一歩を踏み出す。

 高さ14.5メートルの防潮堤を築くのか。もっと低くして、盛り土の上に住宅を建てるのか。コンサルタント会社が地区ごとに描いた複数の復興計画のたたき台を、隔週末に地元の体育館などで、数十人から時には100人を超える住民が、図面を囲んで車座になって議論してきた。

 町の原案に住民の同意を求める手法ではなく、町民に決めてもらう。そのため、町職員は発言せず、大学教授ら第三者が進行役を務めた。

 住民主導にこだわったのは、8月に選ばれた碇川(いかりがわ)豊町長だ。

 「まずは住んでいる人たちに議論してもらうのが基本。それが自治ということ」

 役場機能を失い、復興に出遅れた町が行き着いたのが、拙速を避け「自分たちで決める」という自治の原点だった。

■新しい参加のかたち

 いま、各地にさまざまな住民参加が広がりつつある。

 地方議会を傍聴する住民が、議員の仕事ぶりを「通信簿」や「白書」で評価する動きが、仙台市や神奈川県川崎市、相模原市、千葉県佐倉市、兵庫県尼崎市などで盛んだ。

 無作為に選ばれた住民が地域の課題を話し合い、役所に進言する「市民討議会」も増えている。NPO法人「市民討議会推進ネットワーク」によると、ことしは東京都町田市や愛知県豊山町をはじめ、全国55カ所で、市役所跡地の利用法や子育て政策などを議論してきた。

 ただ、こんな元気な住民の活動は、1800近い自治体全体からみれば、まだまだ少数だ。ほとんどの市区町村では「役所頼み」「議会任せ」という「自治の丸投げ」が当たり前だ。

 中学生までの医療費を無料にする自治体が現れるなど、住民負担の地域差は広がっている。

 国民健康保険料でみれば、1人あたりの年額の最高は北海道猿払村の13万円余、最低は沖縄県伊平屋村の約3万円、ざっと4.3倍の開きがある。

 医療や介護の受益と負担をどう考えるのか。いつとも知れぬ大地震にどう備えるのか。

 住民が傍観者でいるわけにはいかない問題が山積している。

■議会を変えよう

 4年に一度の選挙で知事や市町村長、議員を選ぶ。それだけで私たちは主権者といえるのだろうか。もっと、役所や議会との距離を縮めよう。

 まずは議会だ。落選したときを考えれば、一般の勤め人は出にくい。だから自営業など一部の職種の議員が居並び、住民構成とかけ離れた議会になる。住民は関心を抱かず、不信感を募らせる悪循環に陥っている。

 会議を夜に開くなどの工夫はもちろん、職場の仕事と議員活動を両立できる休職制度や、議員が議席を持ったまま首長選や国会に挑める制度などの仕組みを整えよう。

 いまの議会には予算の提案権はなく、修正にも制約がある。住民に認められている条例制定などの直接請求では、地方税は対象にできない。

 こうした地方自治法の規定が、議会や住民を「自治体の財政」に関する議論から遠ざけているとの指摘がある。法改正を検討してもいいだろう。

 有権者の間口も広げよう。

 「選挙制度」でも提言したが、若者に地域のことを考えてもらうため、地方選挙権は16歳から認める。永住外国人にも地方選挙の投票権を与えよう。「日本国籍をとればいい」という反対論も根強いが、地域の一員として暮らす人々を排除しないことで、多様な意見が行き交い自治が豊かになる。

■もっと住民に聞こう

 住民投票制度も進化させる。投票ごとテーマごとに条例をつくるのでなく、あらかじめルールを決め、一定数の請求があれば実施する常設型を増やそう。全国で40余りの自治体が導入しており、岩手県奥州市、愛知県高浜市などでは永住外国人にも投票権を与えている。

 また、首長と議会が対立したら、住民投票で決着をはかるのも一案だ。名古屋市のように首長と議会の激しい対立にエネルギーを費やすより、その両方を選んだ住民の判断に委ねるという発想だ。

 自治の議論では、大阪都構想や道州制といった自治体の枠組みの議論が華やかに取り上げられがちだ。だが、もっと地道に地方分権を進め、足元を見つめ直すことで、住民自治を強めることが出発点になる。

 できる限り、みずから参加して、考え、判断して、決めて、その責任も負う。そんな自治へのかかわりが、私たち自身の「政治」を鍛える。

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