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先の戦争中に「ぜいたくは敵だ」のスローガンがあった。これに「素」を足して、「ぜいたくは素敵(すてき)だ」とやったシャレはパロディー史に燦然(さんぜん)と輝く。この手のもじりの面白さには「法則」がある。言葉の変化はできる限り小さくて、意味の変化が大きいほど、笑いの声は大きくなる▼「白い恋人」を「面白い恋人」とやったのは、法則通りといえる。北海道の名高い菓子をもじり、大阪の吉本興業などが関西の駅や空港で売り出した。いかにも大阪らしい「本歌取り」に、ニヤリとした向きは多かったろう▼それを「本家」の石屋製菓が商標権侵害で訴えた。長年かけて育てた商標や名声を、丸呑(の)みされたような立腹は分かる。とはいえ、どちらの肩を持つか。法律解釈はおいて、巷(ちまた)の声は色々のようだ▼文芸作品でも、たまに議論がある。たとえば寺山修司の一首〈向日葵(ひまわり)の下に饒舌(じょうぜつ)高きかな人を訪わずば自己なき男〉には、中村草田男の〈人を訪はずば自己なき男月見草〉という先行句があった。これをどう見るかはなかなか難しい▼遊び心で通る手法もある。4月の小紙俳壇の〈雪とけて村一ぱいの休耕田〉を、選者の金子兜太さんは「一茶の『雪とけて村一ぱいの子ども哉(かな)』の本歌取り成功」と評した。これなど作者の「お手柄」といった感がする▼世の中に名手はいるもので、先の川柳欄にさっそく〈「面白い変人」ならば揉(も)めてない〉の寸鉄が載っていた。お菓子の訴訟に、パロディーの「妙と副作用」を考えさせられる。