日米欧の中央銀行が資金繰りに窮した銀行にドル資金を供給する協調策に乗り出した。欧州債務危機が深まる中、適切な対応だが、抜本策にはならない。ユーロの構造的な問題を直視すべきだ。
欧米の銀行は債務危機が深まるにつれて、互いの経営状態について疑心暗鬼が高まり、銀行同士の取引でドル資金を調達しにくくなっていた。相手が突然、経営破綻すれば資金を回収できなくなってしまうからだ。
事態を放置すれば銀行が「突然死」するリスクは一層、高まる。そこで日本銀行や米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)など主要六中銀は資金難に陥った銀行にドル資金を供給する協調体制を整えた。
こうした仕組みは二〇〇八年の金融危機で初めて導入され、昨年五月に復活していた。当初は市場金利に1%上乗せして貸し出したが、今回、借りやすくするために上乗せ幅を0・5%引き下げた。
世界で事業を展開している銀行にとって、国際決済に使うドル資金は常時、手元に置いておかねばならない通貨になっている。発端はユーロだったが、債務危機は主要銀行の経営を直撃し、ドルの流動性問題にまで発展した形だ。
これでドル資金難に直面した銀行は各国の中銀に駆け込めば、当座の資金を入手できる。それだけ突然死のリスクが減るものの、問題の根本的解決からは程遠い。
債務危機はギリシャだけでなく各国に飛び火している。イタリアの十年物国債利回りは危険水準とされる7%の大台を超え、もっとも安全とみられたドイツ国債でさえも、入札で応募が募集額に届かない札割れを起こした。
国債の値下がり(利回り上昇)が銀行の損失を拡大し、資産圧縮や貸し渋りを招いている。銀行間の信用が収縮し、世界的な景気後退が現実味を帯びてきた。財政出動で体力が弱った銀行を支えようにも、すでに余力はなく、新たな債務危機の火種にもなる。
こうした悪循環を絶つために、ECBによる国債の買い上げやユーロ圏諸国の共同債発行などが検討課題に上っている。だが、いずれもインフレ懸念や財政規律が緩むといった理由でドイツや北欧諸国などの反対が強く、対応策はまとまっていない。
危機は切迫している。世界への波及を防ぐために、欧州は重債務国の一時的なユーロ離脱のような抜本策も除外せず、あらゆる方策を視野に入れる局面ではないか。
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