中東の大国エジプトで人民議会選挙が始まった。ことし二月の民衆革命が勝ち取った成果だ。軍の不介入はもちろん、民主化という大目標に向かってイスラム組織も世俗派も力を合わせてほしい。
人民議会は下院に相当し定数五〇八。立法権をもち、国家政策や経済計画を承認する。
一つ目は、軍が政治に介入しないことだ。今回の選挙で生まれる議会は新憲法の制定にかかわる役目を負う。公平と公正が何よりも必要だ。
選挙の直前、暫定統治中の軍政が軍事予算の聖域化やある種の拒否権を唱えたことは、国民に大きな失望と不信をもたらした。軍が国の経済活動に大きな部分を占めるとはいえ、利権・特権の温存はムバラク前政権を引きずることになる。カイロのタハリール広場に怒れる若者らが押し寄せたのも当然だった。軍には信頼をつなぎ留める努力を求めたい。
二つ目は、宗教勢力、世俗勢力という色分けや対立を超えた選挙であってほしいということ。国内最大の宗教勢力、イスラム原理主義組織のムスリム同胞団は、半世紀前のナセル革命の後、非合法化された。同胞団とナセルの権力闘争の果てだった。以降、同胞団は強大であるだけに徹底的に弾圧され、エジプトの社会構造は不自然な二重構造となっていた。
世論調査などからは、同胞団系の政党が議会第一党になるとみられている。過半数には届かず、ほかの世俗勢力の政党と連立を組むとの予測も出ている。他方、広場の若者グループには軍や同胞団への反発から選挙ボイコットを叫ぶ者もいる。それぞれに考えの差はあるにせよ、多くの民衆は今度の選挙の投票に初の“自由”を感じているという。過去の選挙は何も変えなかったのだから。
選挙を通じて、エジプト社会の実際の多様性が反映されることが大事なのだ。
三つ目は、私たちも考えたいことだ。人口八千万を擁するエジプトは今もアラブの盟主である。その国の民主化の行方と成否がこの地域の安定と繁栄に密接であることは疑いない。イスラムの政治参加は地域を不安定にするのでなく、イスラムを含む民主化こそが地域の安定と繁栄をもたらすと考えるべきである。中東和平もその中にある。
選挙は国内を三つに分け一月まで続く。この間にイスラムへの偏見が解かれていくことを願う。
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