在日米軍基地の74%が集中する沖縄県。その基地負担軽減に汗を流すべき官僚になぜ、県民を蔑(さげす)むような発言ができるのだろう。配慮を欠くというよりも、それが政府の本音だからではないか。
その発言は二十八日夜、那覇市内の居酒屋で行われた記者団との懇談で飛び出した。発言の主は防衛省の田中聡沖縄防衛局長。
一川保夫防衛相が米軍普天間飛行場の代替施設として名護市辺野古に新しい基地を造るための環境影響評価書を年内に提出すると断言しない理由を聞かれ、「(女性を)犯す前に『これから犯しますよ』と言いますか」と発言した。
懇談には沖縄県政を担当する県内外九社の記者が出席。記事にしないオフレコが前提の発言だったが、地元紙の琉球新報が二十九日付朝刊一面トップで伝えた。
「公的立場の人物が人権感覚を著しく疑わせる蔑視発言をした。慎重に判断した結果、オフレコだったが、県民に知らせる公益性が勝ると考え報道した」(普久原均編集局次長)という。
発言の重大性を鑑みれば報道するのは当然だろう。まずは琉球新報の報道姿勢を支持する。
移設手続きを女性暴行に例えるのは女性蔑視にほかならない。
そればかりか、普天間飛行場の返還協議が一九九五年の米海兵隊員による少女暴行事件を契機に始まった経緯を承知していれば、女性暴行を例に引く発言などできるはずがない。更迭は当然だ。
もっとも、防衛官僚からそうした発言が飛び出すのは、人権感覚の欠如はもちろん、米軍基地は沖縄に押し付けて当然という政府の傲慢(ごうまん)な姿勢があるからだろう。
沖縄居座りを求める米政府の顔色をうかがい、沖縄県民とは向き合おうとしない。普天間の国外・県外移設を提起する努力もせず、辺野古への県内移設しか選択肢はないと強弁する。これではどこの政府かと言いたくもなる。
日本政府よりも米知日派の方が状況をより正確に認識している。
ナイ元米国防次官補は米紙への投稿で県内移設は沖縄県民には受け入れがたく、米海兵隊の豪州配備は「賢明」と記した。モチヅキ米ジョージ・ワシントン大教授らは米CNNへの寄稿で在沖縄海兵隊の米本土移転を提起した。
日米両政府は県内移設がもはや困難だと率直に認め合い、新たな解決策を探り始めてはどうか。それが日本政府には、沖縄県民の信頼を回復する唯一の道である。
この記事を印刷する