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野田首相がきのう、初めての党首討論に臨んだ。政権が発足して3カ月。日々の直接取材を受けず、記者会見も少ない首相がどんな発信をするのか、野党がどう切り返すのかに注目した。[記事全文]
25年前、福井市で起きた殺人事件で、名古屋高裁金沢支部は裁判のやり直しを決めた。懲役7年の刑が確定した男性が服役後に再審を求めていた。被害者の女子中学生は卒業式の夜、自[記事全文]
野田首相がきのう、初めての党首討論に臨んだ。
政権が発足して3カ月。日々の直接取材を受けず、記者会見も少ない首相がどんな発信をするのか、野党がどう切り返すのかに注目した。
主なテーマは環太平洋経済連携協定(TPP)と、社会保障と税の一体改革だった。
ともに国の将来を左右するテーマであり、中身の濃い政策論争を期待したが、議論はかみ合わなかった。
何より、民主、自民の2大政党の間の本質的な違いが見えなかった。
野田首相の狙いは、はっきりしていた。国会運営、政策協議で自民党の協力を引き出すことだ。準備も周到だった。
TPP参加問題では、3年前の自身の国会質問に、麻生政権側が「真剣に検討をすすめている」と答弁したことを取りあげて、いまの自民党の立ち位置をただした。
谷垣禎一総裁は「政府の情報が私たちに伝わっていない」と情報開示の不足を突いたが、党の態度は明言しなかった。
一体改革をめぐっては、首相は自民党の財政健全化責任法案に、「党派を超えた国会議員により構成される会議」を設けて政府の素案を検討するとあることを指摘。「われわれが素案をつくった暁には、ぜひ協議していただきたい」と求めた。
谷垣氏は、民主党が「任期中は消費税を増税しない」と約束していたことを理由に反論。解散・総選挙をしないままでは「うそのマニフェスト、民主主義の破壊に手を貸すことになる」と突っぱねた。
谷垣氏の指摘には一理ある。政府のTPPに関する情報開示はまだ足りないし、消費増税をめぐる首相の言動は公約違反のそしりを免れない。
年金一元化や7万円の最低保障年金の公約はどうなったのかという問いにも、首相ははっきりと答えるべきだった。
ただ、谷垣氏の主張はTPP参加や消費増税そのものに対する異論ではなかった。むしろ、政府・民主党と方向性に大差はなく、具体策づくりで協調する余地があるように見えた。
そもそも、経済連携も財政の立て直しも、どの党が政権に就いても向き合わざるを得ないのは明らかだ。
こんな状態のまま総選挙に突入しても、有権者は違いがわからず選びにくいだろう。
きのうの党首討論は改めて、2大政党の近さを示した。お互いに、もっと一致点を見いだす努力ができるはずだ。
25年前、福井市で起きた殺人事件で、名古屋高裁金沢支部は裁判のやり直しを決めた。懲役7年の刑が確定した男性が服役後に再審を求めていた。
被害者の女子中学生は卒業式の夜、自宅で殺害された。1年後に逮捕された男性は一貫して無実を訴えた。一審は無罪だったが、二審で逆転有罪となり、最高裁で97年に刑が確定した。
物証はなく、多くの再審事件で問題となった「自白」もなかった。逃走を手助けしたとする知人ら参考人の供述が有罪の決め手となった。
覚醒剤の事件で捕まっていた元暴力団組員が事件の7カ月後に「返り血を浴びた男性をかくまった」「逃走に使った車に血痕があった」と供述を始めた。
これをきっかけに男性の知人らが相次いで警察に呼ばれ、元組員の主張に沿う供述調書がつくられた。元組員は「俺の情報で逮捕できれば減刑してもらえる」と知人に伝えていた。
検察が今回初めて開示した証拠類を弁護団が鑑定した結果、車に被害者の血痕はなかった。参考人の供述調書も新たに開示されたことで、取調官が誘導した疑いも浮かんできた。
検察は裁判所の勧告を受けてようやく開示に踏み切った。当初からこうした証拠が明らかだったら、有罪と判断されたであろうか、と考えさせられる。
裁判所は弁護側の法医学鑑定など新たな証拠もふまえ、「元組員らの供述は信用性に疑問がある」と再審を決定した。
検察は裁判で証拠を全面的に開示することを原則としなければならない。
容疑者だけでなく、参考人の取り調べも密室で行われる。
供述を誘導すれば、事件の構図がゆがめられることは、郵便不正事件でも明らかになった。無罪となった村木厚子さんは、厚生労働省の同僚らの証言をもとに逮捕された。その供述調書は、大阪地検特捜部の強引な取り調べでつくられていた。
捜査の検証を可能とするために取り調べの一部始終を録音録画する可視化が必要だ。参考人も対象にすべきであることは、この再審事件の教訓である。
可視化をめぐる論議は法制審議会の特別部会で進められている。その委員の村木さんは「参考人についても可視化を」と求めた。自らの体験に重ねた発言の重みを受け止めたい。
平岡秀夫法相は就任会見で、可視化について「めざすところは全過程で全事件」と話した。裁判員裁判で市民が誤判にかかわることのないよう、法制審の結論を得て法制化を急ぎたい。