大阪市長選、大阪府知事選とも地域政党・大阪維新の会が快勝した。掲げた大阪都構想の実現へ向けて弾みがつく。地域に根付く自治の個性を尊重し、発展させる観点で新たな制度を考えてほしい。
知事から市長にくら替えを果たした維新の橋下徹代表は、してやったりだろう。市を解体するという前代未聞の訴えが、「大阪を変えてほしい」という市民、府民の切実な思いをとらえた。現職の平松邦夫氏は「市と市民を守る」と防戦一方だった。
といっても、都構想が全面的に支持された訳ではもちろんない。訴えは制度論にとどまり、有権者が知りたい生活がどう変わるのかの具体例は聞けずじまいだった。市を再編する特別自治区へは十分に税財源が配分されるのか。区割りはどうやって決めるのか。こうした疑問も消えていない。
選挙中、「ハシモっちゃんのやり方は好かんけど、ヒラマっちゃんじゃ何も変わらん」と漠然と期待する市民の声を多く聞いた。大阪再生にはガラガラポンしかない、というのか。橋下新市長と松井一郎新知事はまず、大阪都構想の工程や課題を明らかにし、府民の納得が得られるよう具体像を示してもらいたい。
早速直面するのは、維新が過半数を持たない市議会対策だ。議会リコールと住民投票を仕掛ければ、またぞろ“橋下劇場”が続く。荒っぽい手法は民主主義の本質から離れる。勝ったからこそ、ここは謙虚に、改革の長所も短所も市民、府民、そして国民の前で論じ合ってほしい。
都構想は大都市制度の見直しという日本の構造改革につながる。実現には法整備も必要で、維新は国政進出も視野の内だという。
民主、自民両党は次期衆院選をにらんで、このダブル選を府連対応にとどめ“相乗り”した。公明は自主投票、共産は市長選候補を下げた。既成政党は、議論から逃げたと言われても仕方ない。
政府内には「大阪が勝手にやることではない」と批判的な声がある。総務省も「住民サービスを担う基礎自治体の機能が低下しないか」と懸念を抱いている。
橋下流の是非はともかく、永田町や霞が関の主導では、自治を強くする地域主権はもはや進まないと国民は考えだしている。中京都や新潟州の構想をはじめ、政令市を道府県から独立させる特別自治市の研究も始まっている。地方が国を動かす先例として、大阪から当分、目が離せない。
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