HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 27 Nov 2011 20:21:38 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 農業よ、目覚めよう:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 農業よ、目覚めよう

 環太平洋連携協定(TPP)があろうとなかろうと、農業は危機を迎えています。担い手たちは実りの秋もそこそこに、自立の準備を進めています。

 庭先で真っ赤な熟柿(じゅくし)が揺れています。農舎の隣の工房からは、パンを焼く香ばしいにおいが風に流されてきます。

 福井県若狭町の有限会社「氣(き)ごころや」。創業から六年。稲作を中心に、野菜と加工販売の三本柱を農業経営の基本に据えています。野菜部門はブロッコリー、加工販売では米粉パンが主力です。

◆農業を職業にしたい

 社長で生産現場を担当する中務太(なかむふとし)さん(39)、専務で営業担当の秋月靖之さん(39)は、ともに非農家からのIターン、新規就農組。

 大阪府枚方市出身で、就農前に十指に余る職業を経験したという秋月さんは、農業を「これからもうかる職業です」と断言します。手厚い保護下にあったため“業”として自立しきれていない、未開拓の沃野(よくや)とみています。

 「農業自体がまだ職業になっていない。多くは農業ではなく農作業。補助金をもらってようやく息をついています。僕らの代で農業を職業にしてみたい」

 二人の一致した意見です。

 氣ごころやは「中規模多角経営」をうたっています。経営規模の拡大はほどほどに、販売戦略を重視します。

 例えば、米粉パンは、米作りから焼き上がりまで自社内で一貫生産しています。約九割という米粉比率の高さ、安全、安心を売り物に、差別化を図ります。流通のむだを省けば、その分利益も増やせます。常に焼きたての風味を味わってもらおうと、急速冷凍機も買い入れました。そういう場合は、融資、投資と割りきって、制度資金や補助事業もフルに活用しています。流行の六次産業化を勧められるまでもなく、商業、製造業、そしてサービス業の要素を取り入れた新しい農業のかたちを探しています。

 ブロッコリーは氷詰めにして鮮度を保ち、地元のスーパーと直接取引しています。

 消費者のニーズを吸い上げながら地域ときずなを結ぶこと、気ごころを通じることこそ、「氣ごころや」の「氣ごころや」たる、ゆえんでしょうか。

 米国西海岸では、ファーマーズマーケットが盛んです。生産者が自ら作った農産物を販売する朝市です。農家は客と直接言葉を交わし、その喜ぶ顔を見て、農業への意欲を高めます。

◆TPPより以前から

 かつて農業は、最も創造的な“なりわい”でした。風を読み、土を作り、水を操り、いのちをはぐくみ、人々の胃袋と心を満たしてくれました。それがいつしか、流通や販売、何を、どう作るかさえも、農協に任せきり。多くの農家はTPPよりずっと以前から、消費者が「ありがとう」「おいしかった」と喜ぶ顔を見失い、“ものづくり”の実感を持てなくなっていたようです。

 秋月さんは「見方を変えればTPPは、外国産と比較して地産地消の良さを伝えるチャンス、商機です。よそ者ならではの非常識かもしれないですが」と話す。

 その非常識こそ、戸別所得補償のような一律の保護に慣れきった日本の農業に、今一番必要な刺激なのかもしれません。

 農政も変わらなければなりません。水田は票田ではありません。ばらまきから集中へ。農家の保護から農業の育成、自立にギアを戻して、夢のある“ものづくり”としての農業を今度こそ再生させなければなりません。

 もちろん、水源や景観の保全、農村文化の伝承などに不可欠な中山間地の農業は、その多面的機能への対価として、欧州のような環境への直接支払いで、これからも守っていかねばなりません。

 多面的機能といえば、滋賀県東近江市の栗見出在家集落は、五年前から地域ぐるみで「魚のゆりかご水田プロジェクト」を続けています。

 かつて、琵琶湖畔の田んぼには魚道があって、ふなずしの材料として知られる固有種のニゴロブナなどが自由に行き来できました。その魚道を蘇(よみがえ)らせて、魚たちを呼び戻し、魚と人と田んぼのかかわりを取り戻そうとの試みです。

◆黒船がもたらすもの

 子どもたちが田植えや稲刈りを手伝って、魚の泳ぐ田んぼでとれた新米は、学校給食にも供され、人気を集めています。そんな様子を見ていると、たとえ関税が撤廃されて、外国産の安価な米が入ってきても、それだけで国産米が見限られるとは思えません。

 黒船とも呼ばれるTPPの“襲来”で、いつになく農業について考える機会が増えました。黒船が迫っているのは、日本農業の目覚めなのかもしれません。

 

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