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沖縄で交通死亡事故をおこした米軍属の男を、那覇地検が在宅起訴した。捜査の壁になっていた日米地位協定の運用を両国政府が見直したためだが、解決すべき問題はまだ残っている。米[記事全文]
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐり、民主党内のごたごたが収まらない。先の日米首脳会談で、野田首相が「全ての物品とサービスを交渉のテーブルにのせる」と発言したかどうか[記事全文]
沖縄で交通死亡事故をおこした米軍属の男を、那覇地検が在宅起訴した。捜査の壁になっていた日米地位協定の運用を両国政府が見直したためだが、解決すべき問題はまだ残っている。
米軍属とは、米軍で働く米国籍の民間人のことだ。事故は今年1月に沖縄市でおきた。19歳の地元の青年が死亡した。
米軍は軍属が「公務中」だとの立場をとったため、那覇地検はいったん不起訴にした。軍属への米国側の処分は5年間の運転禁止だけだった。
今回、一転して日本の刑事手続きによる起訴になったのは、この処分に疑問をもった那覇検察審査会が「起訴相当」と議決したことがきっかけになった。
裁判員制度とならぶ司法への市民参加である検審の制度が、行政の背中を押したといえる。
日米地位協定は、軍属が事件や事故を起こしても、米軍側が「公務中」と認定した場合は裁判権はまず米軍にあると定めている。
日米両政府は今後、同じような状況で軍属が事件などにかかわったときは、米側が同意すれば、日本が裁判できるよう合意した。
これまでと比べて、大きな前進といえるだろう。
だが、米軍基地の外であっても、「公務中」の軍属の裁判権がまず米国にあることは変わらない。日本が起訴できるかどうかは米国の裁量による。
2006年以降、「公務中」とされる米軍属が事件や事故を起こしても、日米どちらでも裁判にかけられない司法の空白状態が続いていた。
米連邦最高裁に「平時に軍属を軍法会議にかけるのは憲法違反」との判例がある。このため米軍は、軍属を軍法裁判にもかけていないからだ。
米軍の法務官は米最高裁判例をもとに、平時に軍属が罪を犯せば基地受け入れ国が裁判権をもつという見解を示して出版している。つまり、もともと日本側が起訴できるという考え方が米軍内にもある。
今回、日米政府が交渉した背景には、米軍普天間飛行場の移設問題がある。だが沖縄の人たちが受けてきた苦悩を考えれば十分なものとは到底いえない。
米軍基地がある多くの自治体が長年求めてきたのは、同じような状況で日本が裁判権をもつ本来の姿だ。
そのためには、地位協定の条文そのものを直す必要がある。
日米地位協定が結ばれてから半世紀になる。政府は不合理をそのままにせず、米国に協定の改定を求めなくてはならない。
環太平洋経済連携協定(TPP)をめぐり、民主党内のごたごたが収まらない。
先の日米首脳会談で、野田首相が「全ての物品とサービスを交渉のテーブルにのせる」と発言したかどうか。発言していないなら、そう説明した米側の発表を訂正させるべきだ――。TPP反対派が党の両院議員懇談会でただしたのに対し、野田首相は発言していないとの説明を繰り返し、米側への訂正要求には多くを語らなかった。
何ともわかりにくいやりとりが続く。国民のもやもや感は強まる一方だろう。
TPPの協議をどう進めるのか。日本が解決すべき課題や守るべき国益、期待できるメリットは何か。国民に丁寧に説明し直す必要がある。
野田首相はまず、TPP交渉の厳しさと実態を、自らの言葉で率直に語るべきだ。
日本がこれまで2国間で結んできた経済連携協定(EPA)と違い、TPPでは除外分野を明示してから交渉に入ることが原則としてできない。日米首脳会談での発言はともかく、この事実からは逃げられない。
とはいえ、すでに交渉中の9カ国は自国の産業や社会への悪影響を避けようと、さまざまな例外措置を主張している。建前と本音の二段構えといえる。
それだけに、日本政府の交渉力が問われる。この点にも国民の不安は根強い。とりわけ、過去にも日本に厳しい要求を突きつけてきた米国に、しっかり向き合えるのか。
米国からの要求は、医療や金融サービス、食の安全など広い分野に及びそうだ。大半は米通商代表部(USTR)の報告書や、今年から始まった日米経済調和対話の場で示されている。その内容と日本側の対応をわかりやすく示すことが出発点になるだろう。
協議に臨む態勢も大切だ。
TPPの経済への影響については昨年、農林水産省が「参加すれば農業への影響で就業機会が340万人減る」、経済産業省が「不参加なら自動車など3業種で雇用を81万人失う」とバラバラに試算を公表した。
ともに自らの主張に有利となる前提を置いていた。省ごとの主導権争いは百害あって一利なしだ。省庁横断チームを早く立ち上げ、その責任者をしっかり決めねばならない。
交渉ごとは守りばかりではない。先進国として、知的財産権の強化や電気通信サービスなど恩恵が期待できる分野が少なくない。これらを具体的に示していくことも課題となる。