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天声人語

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2011年11月25日(金)付

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 75歳で逝った立川談志さん。誰よりも語りの美学にこだわった芸人だから、声を喉頭(こうとう)がんにやられた悔しさは察するに余りある。楷書を崩すように古典をいじったのは、きちんと巧(うま)い落語はいつでもできるという自負ゆえなのに、その楷書が意に染まない▼天才つながりか、手塚治虫さんと親しかった。漫画家に「丸が描けなくなりました」と明かされた談志さん、「先生にしか描けない丸もある」と励ましたが、似た晩年となった▼「師匠にしかできぬ噺(はなし)」は慰めになるまい。なにせ昭和の大名人を並べて、「晩年はやりやすい噺ばかり。それを枯れた芸なんてほめる奴(やつ)がいた」と突き放した人だ。「年相応」を拒み、退路は粋に断っていた。筆談の病床に去来したものは何か▼博識で能弁、芸談も社会批評も止まらない。本気か洒落(しゃれ)か、境界が危うい毒舌にファンは酔った。素人が下手に触ると火傷(やけど)するが、実はこまやかで優しい人らしい。桂米朝さんの評「むちゃを演じていた」が温かい▼話芸は同業が等しく認める。それを「前座の頃から巧いと気づいていた」と言うのが談志流だ。思うがままに生き、それゆえ好き嫌いは割れたが、落語とは人間の業(ごう)の肯定という持論通りの75年だった▼昨秋、週刊朝日の対談で「生まれ変わるなら」と聞かれた。「何でもいいよ、ヘビでもカラスでも」。鳴かない一羽を見かけたら、頭に何か巻いていないか確かめてみようか。あの、神がかりの「芝浜」が、ひときわ染み入る年の瀬になる。

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