創業家の道楽御曹司が優良企業の屋台骨を揺るがしている。大王製紙前会長が特別背任容疑で逮捕された。日本企業全体の対外的信用が失墜しかねない。同族経営の在り方を問い直す契機としたい。
東京地検特捜部の逮捕容疑では、前会長井川意高(もとたか)容疑者(47)は子会社四社から三十二億円を借り入れて返済せず、損害を与えたとされている。
マカオやシンガポールでのカジノ賭博で生じた借金の穴埋めに充てようと、取締役会の承認を得ずに無担保で借りたという。大企業のトップの地位にあった人物なのかとあきれる。
特捜部には「犯罪に当たるとの認識はなかった」と話したという。自分の財布の金を出し入れしているつもりだったとすれば、経営者として言語道断だ。
大王製紙の特別調査委員会によれば、借入金は子会社七社からの合わせて百六億八千万円に上った。井川前会長はほとんどをカジノに投じたと認めて謝罪した。
そんな大それたことがなぜまかり通ったのか。創業者一族には絶対に逆らえない風土が根づいていたと調査委は指摘する。同族経営が陥りやすい負の側面だ。
創業家が中枢にいる同族経営の形態には、いくつかの利点が挙げられる。例えば、後継者を育成しやすく、トップの世代交代がスムーズにできる。長期的な方針や計画がぐらつきにくく、株式が買収されてよそに経営権が奪われるリスクが低い。
日本を代表するトヨタ自動車やサントリーなどは、その長所を生かしているといわれている。
ティッシュペーパーの後発組だった大王製紙が確立した「エリエール」ブランドは、トップが指導力を発揮しやすい同族経営のたまものだったと見る向きもある。
しかし、今度ばかりは裏目に出た。子会社の金で個人的な遊興費を賄うというひどい公私混同ぶりだ。創業家とは関わりのないはずの監査法人はきちんと責任を果たしていたのか。疑わしい。
今や大王製紙は上場廃止の危機にさらされている。井川前会長への金の流れを決算に反映させる作業を急ぐ必要がある。
落ち度のない従業員をどう守るのか。日本企業の統治能力への不信感をどう払拭(ふっしょく)するのか。創業家はしっかりと説明すべきだ。
ホンダのように社会的役割を全うしようと、同族経営から抜け出す企業も目立つ。経営者はいつも企業は公器と肝に銘じてほしい。
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