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歌人の宮英子(ひでこ)さんの一首を拝借する。〈係恋(けいれん)に似てとしながく思ひたる青いケシ(メコノプシス)をブータンに訪(おとな)ふ〉。係恋とは心にかけて恋い慕うこと。長いあいだ恋い続けてきた、という意味だ。かの国を象徴するその花は、息がつまるほどに青い▼ヒマラヤの雪嶺(せつれい)のふもとには他にも多くの高山植物が咲く。その二輪咲きを見るような、ブータンからのお二人だった。〈男雛女雛(おびなめびな)の国王夫妻〉は朝日川柳の☆印の入選作。素朴でつつましく、かくも好印象を残した国賓はあまり記憶にない▼福島県相馬市の小学校でワンチュク国王(31)は語りかけた。「皆さんの中に人格という竜がいます。年をとって経験を積むほど竜は大きく強くなります」。被災地の子らは忘れまい。竜もかの国のシンボルで、国旗に描かれている▼金閣寺では雨に降られた。有馬頼底(らいてい)住職に傘を差していた寺僧が、邪魔にならぬよう場を外すと、国王はすっと自らの傘を住職に差し掛けた。人格という竜は、ささいなところに顔を出す▼ブータンという国に、中国の古い詩人陶淵明の「桃花源記(とうかげんき)」を思う。ある男が渓谷をさかのぼって、俗界を隔てた桃源郷に迷い込む話だ。帰った男は再び訪ねようとするが、道は二度と見つからない▼グローバル化の時代、物質に頼らぬ幸福を追う国そのものが奇跡の青いケシに似る。孤高を保ちゆく難しさは想像がつく。ともあれ、幸せとは何か、絆とは――。震災の年に来日された巡り合いを思いつつ、彼我のたしかな友情を誓いたい。