東京都大田区にある蒲田高校の文化祭の会場で、マスクをかぶった大きな男が車いすに座り、マイクで語りかけていた。十年前にプロレスの試合で頸椎(けいつい)損傷の大けがをして、全身不随になったハヤブサさん(42)だ▼華麗な空中戦法を得意とする人気レスラーだった。別団体ながらジャイアント馬場選手とタッグを組んだこともある。順調なプロレス人生は一変した。三カ月間、身体が動かなかったら、一生寝たきりだと医師に告げられた▼気が狂いそうになった。自殺したいと願ったが、首から下は動かない。事故から二カ月半がすぎたころ、肺の菌が入った心臓の手術を受けた。それが転機になった▼無事終了し、数日間のどに入っていた管を抜かれると、絶望感が消えていった。「俺は声を出すことができるじゃないか!」。失意は溶けていった▼しばらくして指がぴくりと動いた。立ち上がったり、トイレで用を足したりするのは無理と医師に言われたが、一年かけて立てるようになった。そして、松葉づえがあれば数百メートル歩けるようにもなった▼文化祭で若者への応援を込めた曲を歌った。窓から多くの生徒が顔を出して聞き入っていた。「僕の夢はもう一度コスチュームを着けて、リングに上がること」。けがをしたことは、人生の失敗ではないと言い切る。不死鳥のごとく蘇(よみがえ)った男は、声を武器に励ましを届ける。