イランは核兵器製造につながる技術開発を進めていると、国際原子力機関(IAEA)がこれまでにない深刻な懸念を表明した。核保有の動きを止めるため、関係国のより強い結束が必要だ。
IAEAの天野之弥事務局長はイランの核開発に関する報告書をまとめ、断定は避けたが、核兵器製造が疑われる情報を列挙した。
高性能爆薬による起爆実験をし、実験に使われたとみられる軍事施設を衛星写真で確認した。コンピューターによる核兵器設計を試み、情報や技術は国際的な「核の闇市場」で入手した−。
イラン政府はただちに「報告はバランスを欠き、政治的だ」(IAEA担当大使)と反論した。
しかし、民生用には不必要なほど高い純度のウラン濃縮を続けている。中部コムでは地下に核施設を建設し、弾道ミサイルの試射を繰り返している。
イランはこれまでに国連安保理決議による経済制裁を四度受けている。欧米からの支援が得られないため、産油国なのに精製施設が不十分でガソリンを一部輸入し、天然ガスを液化する施設も満足にない。それだけ追い込まれても核開発を中止しないのでは、軍事転用が目的だと疑わざるを得ない。
イランは核拡散防止条約(NPT)の加盟国である。平和利用だと主張するなら、明確な根拠を示すべきだ。IAEAが求める核施設への査察を受け入れ、ウラン濃縮の実態を明らかにしない限り、疑いは晴れない。
十七日開幕したIAEA理事会では、イランの核活動に「深い懸念」を示す決議案が提案された。強い非難は避け、当面は対話による解決を目指すことになった。
米国と英仏は独自に新たな制裁措置を検討している。だが、イランから原油を輸入し代わりにインフラ整備を請け負う中国と、原発の売り込みを図るロシアはともに追加制裁には慎重だ。
IAEAでの議論には限界がある。兵器転用の疑惑がある限り、強制力を伴う国連安保理での追及が必要になる。
気掛かりなのはイスラエルの動きだ。地元メディアはイランの核施設に対する空爆も検討されていると報じたが、現時点では追加制裁を促す強硬発言の一つとの見方が強い。イスラエル自体もNPTに加盟せず核兵器を持つといわれる。軍事行動は中東全体を揺るがす危険な行為であり、決して国際社会の理解は得られない。
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