福島県産の玄米から、国の暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された。安全宣言後の主食の汚染発覚は大きなショックだ。食品の安全確保は全量検査で取り組むしかないのではないか。
規制値超えのコシヒカリは、福島市大波地区の農家が生産した。この農家の依頼でJA新ふくしまが自主検査して分かった。
主食コメの検査体制については、農林水産省と福島県は念を入れていた。田植え前に土壌を検査し、基準を超えた土地への作付けを禁止した。秋になり収穫前に予備調査、収穫後に本調査と二回の検査を通して水際で防ぐ努力をしてきた。
福島県は全検体が規制値を下回ったとして十月十二日に安全宣言を出していた。
だが、宣言後の汚染発覚で、かえって消費者や生産者の不信を高めてしまった。
大波地区は放射線量が局地的に高い地域だった。稲作農家は百五十四戸だが、検査は三地点にすぎない。他の農家は「うちのコメは大丈夫か」と不安になっている。やはりサンプル検査には限界があるのではないか。
東京電力福島第一原発の事故後、三カ月近くたってようやく局地的に放射線量が高いホットスポットの存在が分かった。
名古屋大学と東京大学などは最近、原発から放出されたセシウムが北海道や中国、四国地方の一部にも飛散した可能性があるとの調査結果を公表した。地形や気象条件によっても飛散や土壌への蓄積状況は違う。予断を持たずに対策を考えることが重要だ。
大波地区の別の農家からは「どうして初めから全ての田んぼを調べてくれなかったのか」との不満が出ている。切実な思いだ。
汚染状況を調べ、放射線量の高い地区を重点的に全量検査を実施すべきだ。消費者だけでなく、風評被害から農家を守るためにも確実な検査が求められている。
JA新ふくしまは今後、流通前の全量検査を行う方針という。ただ「物理的に難しい」とも漏らす。自治体も同様だが、検査費用や人員確保が課題になる。
藤村修官房長官は、国の検査手法の見直しについては否定的だ。だが、今後長期間の対策が求められる内部被ばくの防止には、食品の安全確保がカギだ。自治体と業界団体が連携して検査体制を築く支援を国にも求めたい。
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