ビジネス格言は数多いが、これもその一つ。<商品を売る前に、まず自分を売り込め>。元大リーガーで、後に、全米トップのセールスマンになったフランク・ベトガーという人の言葉だという▼あわてて商談を始めるより、まず取引の相手に信頼してもらうのが先、ということだろう。あらゆる人間関係にも通じる金言かと思うが、今は、本来の意味とは別の解釈が思い浮かんできてならない▼来春卒業予定の大学生の就職活動の厳しさを伝える報道に接したからだ。文科省などのまとめだと、十月一日現在の就職内定率は59・9%にとどまっている。最悪だった昨年同期よりは微増とはいえ、なお、ひと昔前の「就職氷河期」を下回る水準だ▼依然、内定を得られていない卒業予定者の数は推計で十七万人余。いくら商品を売りたくても、就職できなくてはかなわない。面接などでは自己アピールに懸命のはずだ。<商品を売る前に、まず自分を売り込め>。あの言葉が彼らの奮闘に重なる▼企業の採用枠を左右するのは、その時の経済状況。いわば巡り合わせで、もとより学生諸君には何の科(とが)もない。しかも、昨今、無闇(むやみ)に長期化した“マラソン就活”を強いられてきた彼らだ。なのに、あるはずのゴールが見えない。その胸中の焦りを察する▼「氷河期」より寒い冬…。でも、その先には、春が待っていると思いたい。