この時季は、空気が乾燥しやすい。せいぜい火事には用心したいが、中国は晋の時代の小説集『捜神記』に、こんな切ない話がある▼ある男がしたたか酒に酔って、草原で寝込んでしまった。そこへ野焼きが始まったから大変。一緒にいた愛犬は着物をくわえて懸命に引っ張るが、主人はびくともしない。仕方なく、近くの川に飛び込んで体を濡(ぬ)らし、主人のそばに戻っては、身震いして水をまき散らすということを繰り返した▼おかげで男は助かった。が、犬は疲労困憊(こんぱい)して息絶える。やがて目覚めた男は、辺りの様子と、びしょ濡れでこときれている愛犬の姿からことの次第を知り、男泣きに泣いた…▼この犬は、炎熱とは逆に極寒から人を守ってくれたのか。道から車ごと転落し、出られなくなった祖父と幼い孫娘が、雪が降り、氷点下となった凍(い)てつく一夜を生き延びて救助された北海道浦臼町のケース。二人は軽い凍傷を負っただけで済んだ。一緒にいた祖父の愛犬ジュニアが車内で寄り添い、温めてくれたという▼北海道はもちろん、北国からは雪の便りが次々届く。今冬はことに東北の被災地が心配だ。なお癒えぬ傷痕に厳寒はこたえる。せめて、人々の気持ちまで凍てつかぬよう、身で心で、寄り添い続けたい▼寄り添えば、寄り添う方も温かい。案外、ジュニアも二人に温めてもらっていたのかもしれない。