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内輪の席がしばし盛り上がる話題に〈人生の最後に食べたいもの〉がある。「宇宙一の食いしん坊」を自称する作家、よしもとばななさんの場合は、意外にも「おむすび」だという。アエラ誌の対談企画で知った▼小紙別刷り「be」のアンケートでも、同じ設問で「ごはん」が2位につけていた。1位は「にぎりずし」で、これも下半分は米粒だ。コメばなれが言われて久しいが、瑞穂の国の食文化はそうそう廃れまいと、うれしくもなる▼だからこその落胆である。福島市の大波地区でとれたコメから基準を超す放射性セシウムが検出され、地区の全農家が出荷を止められた。コメの出荷停止は初めて。山海の幸を汚した見えない敵は、食の本丸に及んだ▼福島県の稲作には幾重もの安全網がかぶせられ、知事の「安全宣言」で新米が動き始めていた。今回基準値を超えた田んぼは抽出検査の対象外。山間(やまあい)にあり、樹木についたものが雨や沢水で流れ込んだのだろうか▼似た条件の水田は珍しくない。農地にもホットスポットがあるという現実を前に、全袋検査どころか「全粒」の吟味を欲する消費者もいよう。安全網の粗さは風評を呼ぶ▼「結局、肝心なのは食い物、第一次産業です」。『吉本隆明「食」を語る』(朝日文庫)で、ばななさんの父上が論じている。「これの解決がついたら、病気とか健康とか、ほとんどすべてのことが解決する糸口になるよ」と。その逆を行く原発事故は、日本の元気を深いところで蝕(むしば)んでいる。