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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
石鹸(せっけん)という響きには、しつこい汚れにも動じない趣がある。同じ物を指しても、西洋から伝わって以来の「シャボン」や、液状の商品に目立つ「ソープ」は語感が優しすぎて、ちょいと頼りない▼風呂好きと女性の美肌で知られる国である。体を清める品には、やはり漢字の名がふさわしい。広く売るとなれば、自然をにおわす命名も効果的で、昭和が薫る「牛乳石鹸」は傑作の一つだろう▼洗顔用の「茶のしずく石鹸」も名は悪くない。7年前に発売、通信販売で5千万個ほど売れている。ところが、去年までの旧商品は小麦の成分を含み、小麦アレルギーによる顔の腫れ、目のかゆみを訴える人が続いた。呼吸困難に陥る例もあったという▼販売元が回収に努めるも、日用品だけに多くが泡と消えていた。CMの女優に「あきらめないで」と励まされた女性たち。60グラムで約2千円という商品の背信に、あきらめきれぬ思いに違いない▼アレルギー源の食物の中でも、小麦はパンやケーキ、パスタ、天ぷら、カレーと用途が広く、食生活が不自由になる。外食も多い大人になっての発症は厄介だ。美しくありたいと親しんだ泡のせいで、食事のたびに緊張を強いられる半生になりかねない▼どの精密機械より複雑な人体は、外部の刺激に思わぬ反応を示す。それゆえ、危険情報は速やかに社会で共有したい。今回、病院に異変を知らされた厚労省や消費者庁、販売元の動きは鈍かった。想定外と不作為、再び聞きたくない二重奏である。