HTTP/1.1 200 OK Date: Wed, 16 Nov 2011 20:21:46 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:駅のホームに降りると、波が岩に砕ける音が響いてきた。東京か…:社説・コラム(TOKYO Web)
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【コラム】

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 駅のホームに降りると、波が岩に砕ける音が響いてきた。東京から各駅停車で約一時間半。根府川(神奈川県小田原市)は東海道線では珍しい無人駅だ。青い海を見下ろすと、そよ風と潮騒が心地よい▼木造駅舎の待合室に詩が飾ってあった。茨木のり子さんの「根府川の海」の抜粋だ。<根府川/東海道の小駅/赤いカンナの咲いている駅/たっぷり栄養のある/大きな花の向(むこ)うに/いつもまっさおな海がひろがっていた>▼敗戦の翌日、学徒動員先の軍需工場から、帰省する途中にもこの駅を通過した。<蒼(あお)く/国をだきしめて/眉をあげていた/菜ッパ服時代の小さいあたしを/根府川の海よ/忘れはしないだろう?>。亡き詩人は軍国少女だった日々を<無知で純粋で徒労だった歳月>と断じるのだ▼改札を出てみると、無人の販売所でふぞろいのミカンを売っていた。七個で二百円。皮をむいて口に放り込むと、太陽の恵みがあふれ出る▼こんなのどかな駅にも苛酷な歴史が刻印されていた。八十八年前の関東大震災で、すさまじい地滑りが起きた。列車と駅が海に流され、百十二人もの犠牲者が出た。今もそのホームは海底に沈んでいるという。構内に立っている「殉難碑」が、辛うじてその記憶をとどめている▼もう枯れていると思っていたら、三本だけ残ったカンナの赤い花が真っ青な海を背景に揺れていた。

 

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