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野田首相がハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する方針を表明した。走り出したからには、首相は国内の反対・慎重[記事全文]
イタリアのベルルスコーニ首相が、財政再建への実行力を疑問視する市場の圧力を受けて、辞任に追い込まれた。主要国首脳会議(G8)の最古参で、数々の汚職疑惑や女性スキャンダル[記事全文]
野田首相がハワイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)で、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する方針を表明した。
走り出したからには、首相は国内の反対・慎重派に理解を広げる対応を急がねばならない。
同時に首相には、外交面での強い覚悟を求める。
関税ゼロを原則として、人、モノ、カネすべての移動を自由化しようというTPP交渉は、日本にとって厳しい展開にならざるを得ない。
だからこそ、世界第3位の経済大国、環太平洋地域の主要国として、新しい貿易や経済のルールづくりに、どのように主体的に参画するかを宣言し、その覚悟を説明すべきだ。
オバマ米大統領との会談後、米国側は「首相が『すべての物品及びサービスを交渉のテーブルに載せる』と発言した」と発表した。日本政府は否定しているものの、交渉の原則が「例外なし」であることは、厳然たる事実だ。
今後も交渉の過程で、さまざまな「行き違い」や「衝突」があるだろう。そのたびに、自国に有利な環境づくりのための火花が散る。
米政府によれば、米国とともに北米自由貿易協定(NAFTA)を構成するカナダ、メキシコが交渉参加の考えを伝えてきたという。これなど、日本が両国に影響を与えたとも見える。
TPPには、世界第2位の経済大国になった中国に対抗し、米国主導のルールをつくっていく狙いもある。
日本外交の基軸は「日米」であり、米国との関係強化を起点に外交を立て直すのは順当だ。その意味で、TPPには「対中カード」という側面もある。
しかし、地球規模で経済の相互依存が深まったいま、中国抜きの経済体制はあり得ない。ここは米国一辺倒に陥らずに、中国やアジア各国との関係改善、強化も急ぐ必要がある。
首相はAPECで「アジア太平洋自由貿易圏に主導的役割を果たしたい」と語った。
それならばこそ、日中韓の3国間や、ASEAN(東南アジア諸国連合)+3(日中韓)の自由貿易協定も進めて、成果を上げよう。それらが「対米カード」にもなるはずだ。
これから日本が果たすべき役割は、TPP経済圏と中国とのつなぎ役になることだ。
米中双方に利益をもたらす難しい役だけに、これまでの受け身の外交姿勢を改めて、したたかに米国にも中国にもモノを言わねばならない。
イタリアのベルルスコーニ首相が、財政再建への実行力を疑問視する市場の圧力を受けて、辞任に追い込まれた。
主要国首脳会議(G8)の最古参で、数々の汚職疑惑や女性スキャンダルを逃れた政権のあっけない幕切れだった。
大統領から新首相に指名されたのが、経済学者のマリオ・モンティ氏だ。欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会の閣僚にあたる仕事を10年近くつとめた。国内政治の経験は乏しいが経済政策のプロである。
ギリシャからイタリアへ財政危機は飛び火し、政治の歯車をきしませている。危機が世界各国に広がるのを食い止めるためには、市場の動揺をここで封じ込めねばならない。
モンティ氏は新内閣の閣僚の多くに政治家ではなく、学識経験者を選ぶ考えだ。近く国会承認を得て働き始める。主要政党はこの政権をしっかり支えて、財政再建と行財政の改革を素早く進めてもらいたい。
モンティ氏の首相指名が、市場の評価を念頭に置いたものであるのは明らかだ。
モンティ氏は欧州経済や金融への造詣が深く、前政権への批判的な姿勢でも知られている。ただ、国会議員ではなかったため、大統領は先週、モンティ氏を終身上院議員に選び、首相指名への環境を整えた。
政党がそれぞれ独自の政策を掲げて国民の支持を競い合う。それが本来の政治の姿だろう。ところが今は膨大な金融取引を行う市場の動きに、政治はいやでも目を向けざるをえない。
市場と国民。
この二つのはざまで、欧州の民主主義と政治が揺さぶられている。市場は年金減額や増税の実行を求め、国民はそれに反発する。政治家はどうしても国民の歓心を買おうとしがちだ。実務者内閣は、市場と国民の異なる要求を両立させるための苦渋の選択なのだろう。
ギリシャではパパンドレウ政権が崩れ、与野党の大連立合意を受けて、元中央銀行総裁のパパディモス氏が新首相に選ばれた。痛みを強いる政策を国民に説明し、実行する。両国の新首相は、そんなつらい役回りを担わねばなるまい。
イタリアでは1990年代に大きな政界汚職が発覚した際、当時のチャンピ中央銀行総裁が首相になり、選挙制度改革や財政再建の重責を果たした成功例がある。
日本にも、年金や増税など、国民が分かつべき課題がある。イタリアの行く末は決してひとごとではない。